二類本「竹取物語」(CBL本・島原本合成版)


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書誌情報
・二類本の善本であるCBL本を底本とし、次の二箇所の欠落箇所に島原本の本文を補填したもの
 A:「かくて翁やう\/ゆたかに成行此ちこやしなふほとにすく\/とおほきに成まさる三」
 B:燕の子安貝段(CBL本では本来の詞書が全て欠落)
・島原本の本文は新井信之『竹取物語の研究 本文篇』p.103~p.106よりOCRでデータ化した上で手動修正 旧字体は新字体に変換した
・CBL本に存した傍記本文などは全て除去した
 ただし蓬莱の玉の枝段の「おほき○(に)て」の箇所は祖本の誤脱を補ったと考えられるため復した
・この本文データ は クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承 4.0 国際 ライセンスの下に提供されていますクリエイティブ・コモンズ・ライセンス

いまはむかし竹とりのおきなといふものありけり㙒山にましりて竹をとりつゝよろつのことにつかひけり名をはさかきの宮つことなんいひけるその竹の中にもとひかる竹なん一すちありけりあやしかりてとりてみるにつゝの中ひかりたりそれを見れは三すんはかりなる人いとうつくしうてゐたりおきないふやう我朝こと夕ことにみる竹の中におはするにてしりぬ子になり給ふへき人なめりとて手にうち入て家へもてきぬめの女にあつけてやしなはすうつくしきことかきりもなしいとおさなけれは手はこに入てやしなふ竹とりのおきな竹をとるにこの子をみつけてのちに竹をとるにふしをへたてゝよことにこかねある竹を見つくることかさなりぬかくて翁やう\/ゆたかに成行此ちこやしなふほとにすく\/とおほきに成まさる三月はかりになるほとによきほとなる人になりぬれはかみあけなとさうしてかみあけさせ裳きすちやうのうちよりもいたさすいつきやしなふこのちこのかたちのけさうなること世になく屋のうちはくらき㪽なくひかりみちたり翁心あやしくくるしき時もこの子をみれはくるしきこともやみぬはらたゝしきこともなくさみけりおきな竹をとることひさしくなりぬいきをひまことの物になりにけり此子いとおほきになりぬれは名をみむろとのいむへのあきたをよひてつけさすあきたなよ竹のかくやひめとつけつこのほと三日うちあけあそふよろつのあそひをそしけるおとこはうけきらはすよひつとへていとかしこくあそふ

せかひのおのこあてなるもいやしきもいかてこのかくやひめをえてしかなみてしかなとをとにきゝめてゝまとふそのあたりのかきにも家の戸にもおる人たにたはやすくみるましきものをよるはやすきいもねすやみの夜にいてゝもあなをもとめかひまみまとひあへりさる時よりなん夜はひとはいひける人のものともせぬ㪽にまとひありけともなにのしるしあるへくもみえす家の人ともにものをたにいはむとていひかゝれともことゝもせすあたりをはなれぬ君たち夜をあかし日をくらすおほかりをろかなる人はよしなきありきはよしなかりけりとてこすなりにけりその中になをいひけるはいろこのみといはるゝかきり五人おもひやむときなくよるひるきけりその名とも石つくりの御子くらもちの御子右大臣あへのみむらし大納言大伴のみゆき中納言いそのかみまろたりこの人々なりけり世中におほかる人をたにすこしもかたちよしときゝてはみまほしうする人ともなりけれはかくやひめをみまほしうてものもくはすおもひつゝかの家にゆきてたゝすみありきけれとかひあるへくもあらす文をかきてやれとも返事もせすわひうたなとかきてをこすれともかひなしとおもへと霜月しはすのふりこほりみな月のてりはたゝくにもさはらすきたりこの人々ある時は竹とりをよひいてゝむすめをわれにたへとふしおかみ手をすりの給へとをのかなさぬ子なれは心にもしたかはすなんあるといひて月日すくすかゝれは此人々家にかへりてものをおもひいのりをし願をたつおもひやむへくもあらすさりともつゐにおとこあはせさらんやはとおもひてたのみをかけたりあなかちに心さしをみえありくこれを見つけて翁かくやひめにいふやうわか子のほとけ變化の人と申なからこゝらおほきさまてやしなひたてまつる心さしをろかならすおきなの申さんことはきゝ給ひてんやといへはかくやひめなにことをかの給はんことはうけ給はらさらん變化のものにて侍けん身ともしらすおやとこそおもひたてまつれといふ翁うれしくもの給ふものかなといふおきなとし七十にあまりぬけふともあすともしらす此よの人はおとこは女にあふことをす女はおとこにあふことをすそのゝちなん門ひろくもなり侍るいかてかさることなくてはおはせんかくやひめのいはくなんてうさることかし侍らんといへは變化の人といふとも女の身もち給へりおきなのあらんかきりはかうてもいますかりなんかし此人々のとし月をへてかうのみいましつゝの給ふことを思ひさためてひとり\/にあひたてまつり給はねといへはかくやひめいはくよくもあらぬかたちをふかき心をしらてあた心つきなは後くやしきこともあるへきをとおもふはかりなり世のかしこ人なりともふかき心さしをしらてはあひかたしとなんおもふといふおきないはくおもひのことくもの給ふかなそも\/いかやうなる心さしあらん人にかあはんとおほすかはかり心さしをろかならぬ人々にこそあむめれかくやひめのいはく何はかりのふかきをかみんといはんいさゝかのことなり人の心さしひとしからんやいかてか中におとりまさりはしらん五人の中にゆかしきものをみせ給へらんに御心さしまさりたりとてつかうまつらんとそのおはすらん人々に申給へといふよきことなりとうけつ日くるゝほとれいのあつまりぬあるひは笛をふきあるひはうたをうたひあるひはしやうかをしあるひはうそふき扇をならしなんとするにおきないてゝいはくかたしけなくきたなけなる㪽に年月をへてものし給ふこときはまりたるかしこまりと申す翁のいのちけふあすともしらぬをかくの給君たちにもよくおもひさためてつかうまつれと申もことはりなりいつれもをとりまさりおはしまさねは御心さしのほとはみゆへしつかうまつらんことはそれになんさたむへきといへはこれよきことなり人の御うらみもあらましといふ五人の人々もよきことなりといへはおきないりていふかくやひめ石つくりの御子には仏の御石のはちといふものありそれをとりて給へといふくらもちの御子には東のうみにほうらいといふ山ある也それにしろかねをねとしこかねをくきとししろき玉をみとしてたてる木ありそれ一枝おりて給はらんといふいまひとりにはもろこしにある火ねすみのかはきぬを給へ大伴の大なこんにはたつのくひに五色にひかる玉ありそれをとりて給へいそのかみの中なこむにはつはくらめのもたるこやすのかひひとつとりて給へといふおきなかたきことゝもにこそあなれこの國にあるものにもあらすかくかたきことをはいかに申さんといふかくやひめなにかかたからんといへはおきなとまれかくまれ申さんとていてゝかくなんきこゆるやうにみたまへといへは御子たち上達阝きゝておいらかにあたりよりたになありきそとやはの給はぬといひてうむしてみなかへりぬ

なを此女みすは世にあるましきこゝちのしけれは天竺にあるものももてこぬ物かはとおもひめくらして石つくりの御子は心のしたくある人にて天ちくに二となきはちを百千万里のほとゆきたりともいかてかとるへきとおもひてかくやひめのもとにては今日なん天ちくへ石のはちとりにまかるときかせて三年はかり大和國とをちの郡にある山てらにひんつるのまへなるはちのひたくろにすみつきたるをとりてにしきのふくろに入てつくりはなのえたにつけてかくやひめの家にもてきてみせけれはかくやひめあやしかりてみるにはちの中にふみありひろけてみれはうみ山のみちに心をつくしはてないしのはちのなみたなかれきかくやひめひかりやあるとみるにほたるはかりのひかりたになしをく露のひかりをたにそやとさまし小くらやまにてなにもとめけんとて返しいたすはちを門にすてゝ此うたの返しをすしらやまにあへはひかりのうするかとはちをすてゝもたのまるゝかなとよみていれたりかくやひめかへしもせすなりぬみゝにもきゝいれさりけれはいひかゝつらひてかへりぬかのはちをすてゝ又いひけるよりそおもなきことをははちをすつとはいひける

くらもちの御子は心たはかりある人にておほやけにはつくしのくにゝゆあみにまからんとていとま申てかくやひめの家には玉のえたとりになんまかるといはせてくたり給につかうまつるへき人々みななにはまて御をくりしてける御子いとしのひてとのたまはせて人もあまたいておはしまさすちかうつかうまつるかきりしていて給ぬ御をくりの人々みたてまつりをくりてかへりぬおはしぬと人にはみえ給て三日はかりありてこきかへり給ぬかねてことみなおほせたりけれはその時一のたからなりけるかちたくみ六人をめしてたはやすく人よりくましき家をつくりてかまとをみへにしこめてたくみらを入給つゝ御子もおなし㪽にこもり給てしらせ給たるかきり十六そをかみにくとをあけて玉の枝をつくり給かくやひめのたまふにたかはすつくりいてついとかしこくたはかりてなにはにみそかにもていてぬ舟にのりてかへりきにけりと殿につけやりていといたくくるしかりたるさましてゐ給へりむかへに人おほくまいりたり玉のえたをはなかひつに入て物おほひてもちてまいるいつかきゝけんくらもちの御子はうとんけのはなもちてのほり給へりとのゝしりけりこれをかくやひめきゝてわれはこの御子にまけぬへしとむねつふれておもひけりかゝるほとに門をたゝきてくらもちの御子おはしたりとつくたひの御すかたなからおはしましたりといへはおきなあひたてまつる御子のたまはくいのちをすてゝかの玉の枝もちてきたるとてかくやひめにみせたてまつり給へといへはおきなもちて入たり此玉のえたにふみそつけたりけるいたつらに身はなしつとも玉のえたをたをらてさらにかへらさらましこれをもあはれともみすをるに竹とりのおきなはしりいりていはくこの御子に申給ひしほうらいの玉の枝をひとつのところあやまたすもておはしませりなにをもちてとかく申へきたひの御すかたなからわか御家へもより給はすしておはしましたりはや此御子にあひつかうまつり給へといふにものもいはてつらつえをつきていみしくなけかしけにおもひたりこの御子いまさへなにかといふへからすといふまゝにえむにはひのほり給ぬおきなことはりにおもふこの國にみえぬ玉の枝なりこのたひはいかてかいなひ申さん人さまもよき人におはすなといひゐたりかくやひめのいふやうおやのゝ給ことをひたふるにいなみ申さんことのいとおしさにとりかたきものを申つるにかくあさましくもてきたることをねたくおもひおきなはねやのうちしつらひなとすおきな御子に申やういかなるところにか此木は候けんあやしくうるはしくめてたきものにもと申御子こたへての給はくさをとゝしのきさらきの十日ころになにはより舟にのりてうみの中にいてゝゆかんかたもしらすおほえしかとおもふことならて世中にいきてなにかせんとおもひしかはたゝむなしき風にまかせてありくいのちしなはいかゝはせんいきてあらんかきりかくありきてほうらいといへらんやまにあふやとなみにこきたゝよひありきてわか國のうちをはなれてありきまかりしにある時はなみあれつゝ海のそこにも入ぬへくある時には風につけてしらぬくにゝ吹よせられておにのやうなるもの出きてころさんとしきある時にはきしかたゆくすゑもしらすうみにまきれんとしきある時にはかてつきて草のねをくひものとしきある時はいはんかたなくむくつけくなるものきてくひかゝらんとしきある時にはうみのかひをとりていのちをつくたひの空にたすけ給へき人もなきところにいろ\/のやまひをしてゆくかた空もおほえす舟のゆくにまかせつかくうみにたゝよひて五百日といふたつの時はかりにうみの中にはつかにやまみゆ舟のうちをなんせめてみるうみのうへにたゝよへる山いとおほきにてありその山のさまたかくうるはしこれやわかもとむるやまならんとおもひてさすかにおそろしくおほえて山のめくりをさしめくらして二三日はかりみありくに天人のよそほひしたる女山の中よりいてきてしろかねのかなまるをもちて水をくみありくこれをみて舟よりおちてこの山の名をなにとか申とゝふに女こたへていはくこれはほうらいの山なりといふこれをきくにうれしきことかきりもなし此女にかくの給はたれそととふわか名ははうかんるりといひてふとやまの中にいりぬその山みるにさらにのほるへきやうなしその山のそはひらをめくれはよの中になき花の木ともたてりこかねしろかねるりいろの水山よりなかれいてたりそれにはいろ\/の玉のはしわたせりそのあたりにてりかゝやく木ともたてりその中にこのとりてもちまうてきたりしはいとわろかりしかともの給しにたかはましかはとこのはなをおりてまうてきたるなり山はかきりなくおもしろし世にたとふへきにあらさりしかとこの枝をおりてしかはさらに心もとなくて舟にのりぬをひかせふきて四百よ日になんまうてきにし大願力にやなにはよりきのふなんみやこにまうてきつるさらにしほにぬれたる衣をたにぬきかへなてなんきつるとのたまへはおきなきゝてうちなけきてよめるくれ竹のよゝのたけとりのやまにもさやはわひしきふしをのみみしこれを御子きゝてこゝらのひころおもひわひ侍る心はけふなんおちゐぬるとの給て返しわかたもとけふかはけれはわひしさのちくさのかすもわすられぬへしとの給ふかゝるほとにおとことも六人つらねて庭にいてきたり一人のおとこふはさみにふみをはさみて申つくも㪽つかさのたくみあやへのうちまろ申さく玉の木をつくりつかふまつりしに五こくをたちて千よ日に力をつくしたることすくなからすしかるにろくいまた給はらすこれを給てわろきけこに給はせんといひてさゝけたり竹とりのおきな此たくみらか申事はなにことそとかたふききゝをる御子はわれにもあらぬけしきにてきもきえゐ給へりこれをかくやひめきゝて此たてまつるふみをとれといひてみれはふみに申やう御子の君千日いやしきたくみらともろともにおなし㪽にかくれ給てかしこき玉の枝をつくらせ給てつかさも給はんとおほせ給ひきこれをこのころあんするに御つまとおはしますへきかくやひめのえうし給へきなりけりとうけ給て此宮より給はらんと申て給はるへきなりといふをきゝてかくやひめのくるゝまゝにおもひわひ心ちわつらひつるもひきかへておきなをよひとりていふやうまことにほうらいの木かとこそおもひつれかくあさましきそらことにてありけれははやかへし給へといへはおきなこたふさたかにつくらせたるものときゝつれはかへさんこといとやすしとうなつきおりぬかくやひめの心ゆきはてゝありつるうたのかへしまことかときゝてみつれはことのはをかされる玉の枝にそありけるといひて玉の枝もかへしつ竹とりのおきなさはかりかたらひつるかさすかにおほえてねふりおり御子はたつもはしたゐるもはしたにてゐ給へり日のくれぬれはすへり出給ぬかのうれいを申たくみをはかくやひめよひすへてうれしき人ともなりといひてろくいとおほくとらせ給ふたくみらいみしくよろこひおもひつるやうにもあるかなといひてかへる道にてくらもちの御子ちのなかるゝまて調させ給ふろくえしかひもなくてみなとりすてさせ給てけれはにけうせにけりかくてこの御子は一生のはちこれにすくるはあらし女をえすなりぬるのみにあらす天下の人のみおもはんことのはつかしき事との給てたゝひとりふかき山へいり給ぬ宮つかささふらふ人々みな手をわかちてもとめたてまつれとも御しにもやし給けんえみつけたてまつらすなりぬ御子の御もとにかくし給はんとてとしころみえ給はさりけるなりこれをなん玉さかなるとはいひはしめける

右大臣安倍のみむらしはたからゆたかに家ひろき人にそおはしけるそのとしきたりけるもろこし舟のわうけいといふ人のもとにふみをかきて火ねすみのかはといふなるものかひておこせよとてつかうまつる人の中に心たしかなるをえらひて小㙒のふさもりといふ人をつけてつかはすもていたりてかのもろこしにをるわうけいにこかねをとらすわうけい文をひろけてみて返事かく火ねすみのかはきぬ此國になきものなり音にはきけともいまたみぬものなり世にあるものならは此くにゝもゝてまうてきなましいとかたきあきなひなりしかれとももし天ちくより玉さかにもゝてわたりなは長者のあたりにとふらひもとめんになきものならはつかひにそへてかねをはかへしたてまつらんといへりかのもろこし舟きけりをのゝふさもりまうてきてまうのほるといふを事をきゝてあゆみとうする馬をもちてはしらせむかへさせ給ふ時に馬にのりてつくしよりたゝ七日にのほりまうてきたる文をみるにいはく火ねすみのかはきぬからうして人をいたしてもとめてたてまつる今の世にもむかしの世にもこのかはゝたはやすくなき物なりむかしかしこき天ちくのひしりこのくにゝもてわたりて侍ける西の山寺にありときゝをよひておほやけに申てからうしてかひとりてたてまつるあたひの金すくなしとこくしつかひに申せしかはわうけいか物くはへてかひたりいま金五十両給はるへし舟のかへらんにつけてたひをくれもしかね給はらぬならはかは衣のしちかへしたへといへることをみてなにおほすいまかねすこしにこそあなれかならすをくるへしうれしくしてをこせたるかなとてもろこしのかたにむかひてふしおかみ給このかは衣をいれたるはこをみれはくさ\/のうるはしきるりをいろへてつくれりかは衣をみれはこむしやうの色なり毛のすゑには金のひかりしさゝきたりたからとみえうるはしきことならふへきものなし火にやけぬ事よりもけうらなることならひなしうへかくやひめこのもしかり給にこそありけれとのたまひてあなかしことてはこにいれ給ふてものゝ枝につけて御身のけさういといたくしてやかてとまりなんものそとおほしてうたよみくはへてもちていましたりそのうたはかきりなきおもひにやけぬかは衣たもとかはきてけふこそはきめといへり家の門にもていたりてたてり竹とり出きてとりいれてかくやひめにみすかくやひめのかはきぬをみていはくうるはしき皮なめりわきてまことのかはならんともしらす竹とりこたへていはくとまれかくまれまつしやうしいれたてまつらん世中にみえぬかはきぬのさまなれはこれをとおもひ給ね人ないたくわひさせ給たてまつらせ給ひそといひてよひすゑたてまつれりかくよひすへてこのたひはかならすあはんと女の心にもおもひおりこの翁はかくやひめのやもめなるをなけかしけれはよき人にあはせんとおもひはかれとせちにいなといふことなれはえしひぬはことはりなりかくやひめ翁にいはく此かはきぬは火にやかむにやけすはこそまことならめとおもひて人のいふこにもまけめ世になきものなれはそれをまことゝうたかひなくおもはんとの給ふ猶これをやきて心みんといふおきなそれさもいはれたりといひて大臣にかくなん申といふ大臣こたへていはくこのかはゝもろこしにもなかりけるをからうしてもとめたつねえたるなりなにのうたかひあらんさは申ともはやゝきて見給へといへは火の中にうちくへてやかせ給にめら\/とやけぬされはこそことものゝかはなりけりといふ大臣これをみ給ひてかほは草のはのいろにてゐ給へりかくやひめはあなうれしとよろこひてゐたりかのよみ給けるうたのかへしはこに入てかへすなこりなくもゆとしりなはかは衣おもひのほかにをきてみましをとそありけるされはかへりいましにけり世の人々あへの大臣火ねすみのかは衣もていましてかくやひめにすみ給ふとなこゝにやいますなととふある人のいはくかはゝ火にくへてやきたりしかはめら\/とやけにしかはかくやひめあひ給はすといひけれはこれをきゝてそとけなきものをはあへなしといひける

大伴のみゆきの大納言はわか家にありとある人めしあつめての給はくたつのくひに五色のひかりある玉あなりそれとりてたてまつらん人にはねかはん事をかなへんとの給をのこともおほせのことをうけ給て申さくおほせのことはいともたうとしたゝしこの玉たはやすくえとらしをいはんやたつのくひの玉はいかゝとらんと申あへり大納言の給ふてむのつかひといはんものは命をすてゝもをのか君の仰ことをはかなへんとこそおもふへけれこのくにゝなき天ちくもろこしの物にもあらす此国のうみ山よりたつはおりのほるものなりいかにおもひてかなんちらかたきものと申へきをのことも申やうさらはいかゝはせんかたき事なりとも仰ことにしたかひてもとめにまからんと申に大納言見はらゐてなんちらか君のつかひと名をなかしつ君の仰ことをはそむくへきとのたまひてたつのくひの玉とりにとていたしたて給この人々のみちのかてくひものにとのうちのきぬわたせになとあるかきりとりいてゝそへてつかはす此人々ともかへるまていもゐをしてわれはをらん此玉とりえては家にかへりくなとのたまはせけりをのく仰うけ給てまかり出ぬたつのくひの玉とりえすはかへりくなとの給へはいつちも\/あしのむきたらんかたへいなんすかゝるすきことをし給ことゝそしりあへり給はせたるものをの\/わけつゝとるあるひはをのか家にこもりみあるひはをのかゆかまほしき㪽へいぬおや君と申ともかくつきなきことを仰給ことゝ事ゆかぬものゆへ大納言をそしりあひたりかくやひめすへんにはれいやうには見にくしとの給てうるはしき屋をつくり給てうるしをぬりまきゑしてかへし給ひて屋のうへにはいとをそめていろ\/にふかせてうち\/のしつらひにはいふへくもあらぬ綾をりものにゑをかきて間ことにはりたりもとのめともはかくやひめをかならすあはんまうけしてひとりあかしくらし給ふつかはしゝ人はよるひるまち給ふにとしこゆるまてをともせす心もとなかりていと忍ひてたゝとねり二人めしつきとしてやつれ給てなにはのほとりにおはしましてとひ給ふことは大伴の大納言とのゝ人や舟にのりてたつころしてそかくひの玉とれるとやきくととはするに舟人こたへていはくあやしき事かなとわらひてさるわさ舟もなしとこたふるにをちなきことする舟人にもあるかなかくいふとおほしてわかゆみのちからはたつあらはふといころしてくひの玉はとりてんをそくくるやつはらをまたしとの給て舟にのりてうみことにありき給にいと遠くてつくしのかたのうみにこき出ぬいかゝしけんはやきかせ吹て世界くらかりて舟を吹もてありくいつれのかたともしらす舟を海中にましり入ぬへく吹まはしてなみは舟にうちかけつゝまきいれ神はおちかゝるやうにひらめくかゝるに大納言はまとひて又かゝるわひしきめをみすいかならんとするそとのたまふかちとりこたへて申こゝら舟にのりてまかりありくにまたかくわひしきめをみすみふね海のそこにいらすは神おちかゝりぬへしもしさいはひに神のたすけあらは南の海にふかれおはしぬへしうたてあるぬしのみもとにつかうまつりてすゝろなる死をすへかめるかなとかちとりなく大納言これを聞ての給はく舟にのりてはかちとりの申ことをこそたかき山とたのめなとかくたのもしけなく申そとあをへとをつきてのたまふかちとりこたへて申神ならねはなにわさをかつかうまつらんかせふき浪はけしきに神さへいたゝきにおちかゝるやうなるはたつをころさんともとめ給ゆへにやはやてもりうのふかするなりはや神にいのり給へといふよきことなりとてかちとりの御神きこしめせおほけなく心をさなくたつをころさんとおもひけり今より後は毛すち一すちをたにうこかしたてまつらしとよことをはなちてたちゐなく\/よはひ給こと千たひはかり申給ふけにやあらんやう\/神なりやみぬすこしひかりて風はなをはやく吹かちとりのいはくこれはたつのしわさにこそありけれ此吹風はよきかたの風なりあしきかたのかせにはあらすよきかたにおもむきて吹なりといへとも大納言はこれをきゝいれ給はす三四日吹て吹かへしよせたり濱をみれははりまのあかしの濱なりけり大なこん南海の濱に吹よせられたるにやあらんとおもひていきつきふし給へり舟にあるおのことも国につけたれともくにのつかさまうてとふらふにもえおきあかり給はてふなそこにふし給へり松原に御むしろしきておろしたてまつるその時にそ南海にあらさりけりとおもひてからうしておきあかり給へるをみれは風いとをもき人にてはらいとふくれこなたかなたこれをみたてまつりてそ国のつかさもほうゑみたるくにゝおほせ給てやう\/になはれて家に入給ぬるをいかてかきゝけんつかはしゝおのこともまいりて申やうたつのくひの玉をえとらさりしかはとのへもえまいらさりし玉のとりかたかりしことをしり給へれはなんかんたうあらしとてまいりつると申大納言おきゐての給はくなんちらよくもてこすなりぬたつはなる神のるいにこそありけれそれか玉をとらんとてそこらの人々のかいせられなんとしけりましてたつをとらへたらましかは又ともなくわれはかいせられなましよくとらへすなりにけりかくやひめおほぬす人のやつか人をころさんとするなりけり家のあたりたに今はとをらしをのこともゝなありきそとて家にすこしのこりたりけるものともはたつの玉をとらぬものともにたひつこれをきゝてはなれ給ひしもとのうへははらをきりてわらひ給ふいとをふかせつくりしやはとひからすのすにみなくひもていにけり世界の人のいひけるは大伴の大納言はたつのくひの玉やとりておはしたるいなさもあらすみまなこ二にすもゝのやうなる玉をそゝへていましたるといひけれはあなたへかたといひけるよりそ世にあはぬことをはあなたへかたとはいひはしめける

中納言いそのかみのまろたりは家につかはるゝおのことものもとにつはくらめのすくひたらはつけよとの給ふをうけ給はりてなにのようにかあらんと申こたへての給ふやうつはくらめのもたるこやすの貝をとらんようなりとの給ふおのこともこたへて申つはくらめをあまたころしてみるにも腹になき物なりたゝし子うむときなんいかてかいたすらんと申又人の申やうおほいつかさのいひかしく屋のむねにつくのあなことにつはくらめはすをくひ侍るそれにまめならんおのこともをいてまかりてあくらをゆひあけてうかゝはせんにそこらのつはくらめ子うまさらんやはさてこそとらしめ給はめと申中納言よろこひ給ておかしき事にも有かなもろともえしらさりけり奥有事申たりとの給てまめなるおのことも廿人はかりつかはしてあなゝいにあけすへられたり殿よりつかひひまなく給はせてこやすの貝取たるかととはせ給ふつはくらめも人のあまたのほりゐたるにおちてすにものほりこすかゝるよしの返しを申たれは聞給ていかゝすへきとおほしわつらふにかのつかさの官人くらつまろと申翁申やうこやす貝とらんとおほしめさはたはかり申さんとて御前に参りたれは中納言ひたひを合てむかひ給へりくらつまろか申やう此つはくらめのこやすかいはあしくたはかり給ふなり扨はえとらせ給はしあなゝひにおとろ\/しく廿人の人のほりて侍れはあれて寄まうてこすせさせ給ふへきやうは此あなゝひをこほちて人みなしりそきてまめならん人壱人をあらこにのせすへてつなをかまへて鳥の子うまんあひたにつなをつりあけさせてふとこやすかいをとらせ給はんなんよかるへきと申中納言の給やういとよき事なりとてあなゝいをこほし人皆かへりまうてきぬ中納言くらつ丸にの給はくつはくらめは如何なる時にか子うむとしりて人をはあくへきとの給ふくらつまろ申やうつはくらめ子うまんとする時は尾をさゝけて七とめくりてなんうみおとすめるさて七とめくらんおり引あけてこやす貝はとらせ給へと申中納言よろこひ給てよろつの人にもしらせ給はてみそかにつかさにいましておのこともの中にましりて夜を昼になしてとらしめ給くらつまろかく申をいといたくよろこひての給ふ爰につかはるゝ人にもなきにねかひをかなふる事のうれしさとの給て御そぬきてかつけ給つさらによさりこのつかさにまうてことの給てつかはしつ日暮ぬれはかのつかさにおはして見給ふにまことにつはくらめすつくれりくらつまろ申やうに尾をうけてめくるにあらこに人をのほせてつりあけさせてつはくらめのすに手をさし入させてさくるに物もなしと申中納言悪くさくれはなきなりとはらたちてわれのほりてさくらんとの給てこに乗てつられのほりてうかゝひ給へるにつはくらめおをさゝけていたしめくるにあはせて手をさゝけてさくり給ふに手にひらめる物さはる時にわれ物にきりたり今はおろしてよしゝたりとの給あつまりてとくおろさんとてつなを引すくしてつなたゆるすなはちにやしまのかなへの上にのけさまに落給へり人々水をすくひ入たてまつるからうしていき出給へるに又かなへの上より手とりあしとりてさけおろしたてまつるからうして御心地はいかゝおほさるゝととへはいきの下にて物はすこしおほゆれと腰なんうこかれぬされとこやすかいをふとにきりもたれはうれしくおほゆるなりまつしそくさしてこゝの貝かほみんと御くしもたけて御手をひろけ給へるにつはくらめのまりをけるくそをにきり給へるなりけりそれを見給ひてあなかひなのわさやとの給ひけるよりそ思ふにたかふ事をはかひなしといひけるかひにもあらすと見給ひけるに御心ちもたかひてからひつのふたのいれられ給へくもあらす御こしはおれにけり中納言はいかゝいけたるわさしてやんことを人にきかせしとし給ひけれとそれをやまひにていとよはくなり給ひにけり貝をはとらすなりにけるよりも人の聞わらはん事を日にそへておもひ給ひけれはたゝにやみしぬるよりも人聞をはつかしくおほえ給なりけり是をかくや姫聞てとふらひにやる寄年をへてなみたちよらぬすみの江のまつかひなしときくはまことかとあるをよみてきかすいとよはき心にかしらをもたけて人にかみを持せてくるしき心ちにからうして書給ふかひはよくありける物をわひはてししぬる命をすくひやはせぬとかきはつるたえ入給ぬ是を聞てかくや姫すこし哀とおほしけりそれよりなむすこし嬉しき事をはかひありとはいひける

さてかくやひめかたちの世ににすめてたきことをみかときこしめして内侍なかとみのふさこにの給おほくの人の身をいたつらになしてあはさなるかくやひめはいかはかりの女そとまかりてみてまいれとの給ふふさこうけ給てまかれり竹とりのおきなかしこまりてしやうしいれてめの女あへり内侍のたまふやうおほせことにかくやひめのかたちいふにおはす也よくみてまいるへきよしの給はせつるになんまいりつるといへはさらはかく申侍らんといひて入ぬかくやひめにはやかの御つかひにたいめむし給へといへはかくやひめよきかたちにもあらすいかてかみゆるへきといへはうたてものたまふかな御門の君の御つかひをはいかてかをろかにせんといへはかくやひめのこたふるやうみかとのめしてのたまはんことかしこしともおもはすといひてさらにみゆへくもあらすむめるこのやうにあれといと心はつかしけにをろそかなるやうにいひけれは心のまゝにもえせめす女内侍のもとにかへりていてゝくちおしきこのおさなきものはこはく侍るものにてたいめむすましきと申内侍かならすみたてまつりてまいれとおほせことありつるものを見たてまつらてはいかてかかへりまいらん國王のおほせことをかさに世にすみ給はん人のうけ給はりたまはてありなんやいはれぬことなし給そとことはをはつかしくいひけれはこれをきゝてましてかくやひめきくへくもあらす國王のおほせことをそむかははやころし給ひてよかしといふ此内侍かへりまいりてこのよしをそうすみかときこしめしておほくの人ころしてける心そかしとの給てやみにけれとなをおほしおはしましてこの女のたはかりにやまけむとおほしておほせ給ふなむちかもちて侍るかくやひめたてまつれかほかたちよしときこしめして御つかひをたひしかとかひなくみえすなりにけりかくたい\/しくやはならはすへきとおほせらるおきなかしこまりて御返事申やうこのめのわらはゝたへて宮つかへつかうまつるへくもあらす侍るをもてわつらひ侍りされともまかりておほせ給はむと奏すこれをきこしめしておほせ給なとか翁の手におほしたてたらんものを心にまかせさらんこの女もしたてまつりたるものならはおきなにかうふりをなとか給はせさらんおきなよろこひて家にかへりてかくやひめにかたるやうかくなむみかとのおほせ給へるなをやはつかうまつり給はぬといへはかくやひめこたへていはくもはらさやうの宮つかへつかうまつらしとおもふをしゐてつかうまつらせ給はゝきえうせなんすみつかさかうふりつかうまつりてしぬはかり也おきないらふるやうなし給ふつかさかうふりもわか子をみたてまつらてはなにゝかはせんさはありともなとか宮つかへをし給はゝさらむしに給へきやうあるへきといふなをそらことかとつかうまつらせてしなすやあると見給へあまたの人の心さしをろかならさりしをむなしくなしてこそあれ昨日けふみかとのゝ給はんことにつかむ人きゝやさしといへは翁こたへていはくてむかのことはとありともかゝりともみいのちのあやうさこそ大なるさはりなれはなをつかうまつるましきことをまいりて申さんとてまいりて申やう仰のことのかしこさにかのわらはをまいらせんとてつかうまつれは宮つかへにいたしたてはしぬへしと申宮つこまろか手にうませたる子にもあらすむかし山にてみつけたりかゝれは心はせもよの人にゝすそ侍と奏せさす御門おはせ給宮つこまろか家はやまもとちかゝなりみかりみゆきし給はんやうにてみてんやとの給はす宮つこまろ申すやういとよき事なりなに心もなくて侍らんにふとみゆきして御らんせられなんとそうすれはみかとにはかに日をさためてみかりにいて給ふてかくやひめの家に入給てみ給ふにひかりみちてけうらにてゐたる人ありこれならんとおほしてちかくわたらせ給ににけているそてをとらへ給へはおもてをふたきて候へとはしめよく御らんしつれはたくひなくめてたくおほえさせ給てゆるさしとておはしまさんとするにかくやひめこたへて奏すをのか身は此くにゝむまれて侍らはこそつかひ給はめいといておはしましかたくや侍らんとそうすみかとなとかさあらんなをいておはしまさんとて御こしをよせ給にこのかくやひめきとかけになりぬはかなくくちおしとおほしてけにたゝ人にはあらさりけりとおほしてさらは御ともにはいていかしもとの御かたちとなり給ひねそれをみてたにかへりなんとおほせらるれはかくやひめもとのかたちになりぬみかとなをめてたくおほしめさるゝことせきとめかたしかくみせたてまつる宮つこまろをよろこひ給ひさてつかうまつる百官人々あるしいかめしうつかうまつる御門かくやひめをとゝめてかへり給はむことをあかすくちおしくおほしけれはたましゐをとゝめたる心ちしてなんかへらせ給ける御こしにたてまつりてかのかくやひめにかへるさのみゆきものうくおもほえてそむきてとまるかくやひめゆへ御かへり事むくらはふしたにもとしはへぬる身のなにかは玉のうてなをもみむこれをみかと御らんしていとゝかへり給はん空もなくおほさる御心はさらにたちかへるへくもおほされさりけれとさりとて夜をあかし給ふへきにあらねはかへらせ給ぬつねにつかうまつる人をみ給ふにかくやひめのかたはらによるへくたにあらさりけりこと人よりはけうらなりとおほしける人のかれにおほしあはすれは人にもあらすかくやひめのみ御心にかゝりてたゝひとりすみし給ふよしなく御かた\/にもわたり給はすかくやひめの御もとにそ御ふみをかきてかよはせたまふ御かへりさすかにゝくからすきこえかはし給ておもしろく木草につけても御うたをよみてつかはす

かやうに御心をたかひになくさめ給ふほとに三年はかりありて春のはしめよりかくやひめ月のおもしろふいてたるをみてつねよりも物おもひたるさまなりある人の月のかほみるはいむことゝせいしけれともともすれは人まにも月をみてはいみしくなき給ふ七月十五日の月に出ゐてせちにものおもへるけしきなりちかくつかはるゝ人々竹とりの翁につけていはくかくやひめれいも月をあはれかり給へとも此ころとなりてはたゝことにも侍らさめりいみしくおほしなけくことあるへしよく\/みたてまつらせ給へといふをきゝてかくやひめにいふやうなむてう心ちすれはかくものをおもひたるさまにて月を見給ふそうれしき世にといふかくやひめみれはせけん心ほそくあはれに侍るなてうものをかなけき侍るへきといふかくやひめのあるところにいたりてみれはなをものおもへるけしきなりこれをみてあるほとけなにことおもひ給ふそおほすらんことなにことそといへはおもふこともなしものなん心ほそくおほゆるといへはおきな月なみ給そこれを見給へはものおほすけしきはあるそといへはいかて月をみてはあらんとてなを月出れは出ゐつゝなけきおもへりゆふやみにはものおもはぬけしきなり月のほとになりぬれはなをとき\/はうちなけきなとすこれをつかうものともなをものおほすことあるへしとさゝやけとおやをはしめてなにことゝもしらす八月十五日はかりの月に出ゐてかくやひめいといたくなき給ふ人めもいまはつゝみ給はすなき給ふこれを見ておやともゝなにことそととひさはくかくやひめなく\/いふさき\/も申さむとおもひしかともかならす心まとはし給はんものそとおもひていまゝてすこし侍りつるなりさのみやはとてうちいて侍りぬるそをのか身はこのくにの人にもあらす月のみやこの人なりそれをなんむかしのちきりありけるによりこの世界にはまうてきたりけるいまはかへるへきになりにけれはこの月の十五日にかのもとのくによりむかへに人々まうてこむすさらすまかりぬへけれはおほしなけかむかかなしきことをこのはるよりおもひなけき侍なりといひていみしくなくをおきなこはなにてうことの給ふそ竹の中よりみつけきこえたりしかとなたねのおほきさおはせしをわかたけたちならふまてやしなひたてまつりたるわか子をなに人かむかへきこえむまさにゆるさんやといひてわれこそしなめとてなきのゝしることいとたへかたけなりかくやひめのいはく月の宮この人にてちゝはゝありかた時のあひたとてかの國よりまうてこしかともかく此くにゝはあまたのとしをへぬるになんありけるかの國の父母のこともおほえすこゝにはかくひさしくあそひきこえてなれたてまつりいみしからん心ちもせすかなしくのみあるされとをのか心ならすまかりなんとするといひてもろともにいみしくなくつかはるゝ人々もとしころならひてたちわかれなんことを心はへなとあてやかにうつくしかりつることを見ならひてこひしからんことのたへかたくゆ水のまれすおなし心になけかしけなり此ことをみかときこしめして竹とりか家に御つかひつかはさせ給御つかひに竹とりいてあひてなくことかきりなしこのことをなけくにひけもしろくこしもかゝまりめもたゝれにけりおきなことしは五十はかりなりけれともものおもふにはかた時になん老にけりと見ゆ御使おほせことゝて翁にいはくいと心くるしくものおもふなるはまことにかとおほせたまふ竹とりなく\/申此十五日になん月のみやこよりかくやひめのむかへにまうてくなるたうとくとはせ給ふ此十五日には人々給りて月のみやこの人まうてこはとらへさせんと申御つかひかへりまいりて翁のありさま申てそうしつることゝも申をきこしめしての給ふ一めみ給ひし御心にたにわすれ給はぬにあけくれみなれたるかくやひめをやりてはいかゝおもふへき彼十五日つかさ\/におほせて勅使少将高貫のおほくにと云人をさして六衛のつかさあはせて二千人の人を竹とりか家につかはす家にまかりてついちのうへに千人屋のうへに千人家の人々いとおほかりけるにあはせてあけるひまもなくまもらすこのまもる人ともゆみやをたいしておりやのうちには女ともを番にをきてまもらす女ぬりこめのうちにかくやひめをいたかへており翁もぬりこめの戸をさして戸くちにおりおきなのいはくかはかりまもるところ天の人にもまけんやといひてやのうへにおる人々にいはく露ももの空にかけらはふといころし給へまもる人のいはくかはかりしてまもるところにはりひとつたにあらはまついころしてほかにさらむとおもひ侍るといふおきなこれをきゝてたのもしかりおりこれきゝてかくやひめはさしこめてまもりたゝかふへきしたくみをしたりともあの國の人にはえたゝかはぬなりゆみやしていられしかくさしこめてありともかの國の人こはみなあきなむすあひたゝはんとすともかのくにの人きなはたけき心つかうまつる人もよもあらし翁のいふやう御むかへにこん人をはなかきつめしてまなこをつかみつふさんさかゝみをとりてかなくりおとさんさかしりをかきいてゝこゝらのおほやけ人にみせてはちをみせんとはらたちおるかくやひめいはくこはたかになのたまふやのうへにおる人とものきくにいとまさなしいますかりつる心さしともをおもひもしらてまかりなんすることのくちおしう侍けりなかきちきりのなかりけれはほとなくまかりぬへきなめりとおもふかかなしく侍なりおやたちのかへりみをいさゝかたにつかうまつらてまからんみちもやすくもあるましきに日ころもいてゐてことしはかりのいとまを申つれとさらにゆるされぬによりてなんかくおもひなけき侍るみ心をのみまとはしてさりなんことのかなしくたへかたく侍りなりかのみやこの人はいとけうらに老もせすなんおもふこともなく侍なりさるところへまからんするもいみしくも侍らす老おとろへ給へるさまをみたてまつらさらんこそこひしからめといひておきなむねいたきことなし給そうるはしきすかたしたるつかひにもさはらしとねたみおりかゝるほとによひすきてねのときはかりは家のあたりひるのあかさにもすきてひかりたりもち月のあかさを十あはせたるはかりにてある人のけのあなさへみゆるほとなり大そらより人雲にのりておりきてつちより五尺はかりあかりたるほとにたちつらねたりこれをみてうちとなる人の心ともものにおそはるゝやうにてあひたゝかはむ心もなかりけりからうしておもひをこしてゆみやをとりたてんとすれとも手にちからもなくなりてなへかゝりたり中に心さかしきものねむしていむとすれともほかさまへいきたれはあれもたゝかはて心ちたゝしにしれてまもりあへりたてる人ともはしやうそくのきよらなる事ものにもにすとふ車一くしたりらかいさしたりその中にわうとおほしき人家に宮つこまろまうてこといふにたけくおもひつる宮つこまろもものにゑひたる心ちしてうつふしにふせりいはくなむちおさなき人いさゝかなるくとくをおきなつくりけるによりてなむちかたすけにとてかたときのほとゝてくたしゝをそこらのとしことそこらのこかね給て身をかへたるかとなりにたりかくやひめはつみをつくり給へりけれはかくいやしきをのれかもとにしはしおはしつるなりつみのかきりはてぬれはかくむかふるをおきななきなけくあたはぬことなりはやいたしたてまつれといふ翁こたへて申かくやひめをやしなひたてまつること廿よねんになりぬかたときとのたまふにあやしくなり侍ぬ又ことゝころにかくやひめと申人そおはすらんといふこゝにおはするかくやひめはをもきやまひをし給へはえいておはしますましと申せはそのかへりことはなくてやのうへにとふ車をよせていさかくやひめきたなきところにいかてか久しくおさせんといふたてこめたるところの戸すなはちたゝあきにあきぬかうしともゝ人はなくしてあきぬ女いたきてゐたるかくやひめとにいてぬえとゝむましけれはたゝさしあふきてなきおり竹とり心まとひてなきふせるところによりてかくやひめいふこゝに心にもあらてかくまかるにのほらんをたに見をくり給へといへともなにしにかなしきにみをくりたてまつらんわれをいかにせよとてすてゝはのほり給ふそくしていておはせねとなきてふせれは心まとひぬふみをかきをきてまからんこひしからんおり\/とりいてゝみ給へとてうちなきてかくことはゝこの國にむまれぬるとならはなけかせたてまつらぬほとまて侍らてすきわかれぬることかへす\/ほいなくこそおほえ侍れぬきをくきぬをかたみと見給へ月のいてたらん夜はみをこせたまへ見すてたてまつりてまかるそらよりもおちぬへき心ちするとかきをく天人の中にもたせたる箱ありあまのはころもいれり又あるはふしのくすりいれりひとりの天人いふつほなる御くすりたてまつれきたなきところのものきこしめしたれは御心あしからんものそとてもてよりたれはわつかなめたまひてすこしかたみとてぬきをくきぬにつゝまんとすれはある天人つゝませす御そをとり出てきせんとすそのときにかくやひめしはしまてといふきぬきせつる人は心ことになるなりといふもの一こといひをくへきことありけりといひてふみかく天人をそしと心もとなかり給ふかくやひめものしらぬことなの給そとていみしくしつかにおほやけに御ふみたてまつり給あはてぬさまなりかくあまたの人を給ひてとゝめさせ給へともゆるさぬむかへまうてきてとりいてまかりぬれはくちおしくかなしきことみやつかへつかうまつらすなりぬるもかくわつらはしき身にて侍れは心えすおほしめされつらめとも心つよくうけ給はらすなりにしことなめけなるものにおほしめしとゝめられぬるなん心にとゝまり侍りぬとていまはとてあまのはころもきるおりそ君をあはれとおもひ出ぬるとてつほのくすりそへて頭中将よひよせてたてまつらす中将に天人とりてつたふ中将とりつれはふとあまのは衣うちきせたてまつりつれはおきなをいとおしかなしとおほしつることもうせぬこのきぬつる人はものおもひなくなりにけれは車にのりて百人はかり天人くしてのほりぬ

そのゝちおきな女ちのなみたをなかしてまとへとかひなしあのかきをきしふみをよみきかせけれとなにせんにかいのちもおしからんたかためにかなにこともようもなしとてくすりもくはすやかておきもあからてやみふせり中将人々ひきくしてかへりまいりてかくやひめをえたゝかひとめすなりぬることこま\/とそうすくすりのつほに御文そへてまいらすひろけて御らんしていといたくあはれからせ給てものもきこしめさす御あそひなともなかりけり大臣上達阝をめしていつれの山か天にちかきととはせ給ふにある人そうすするかの國にあるなるやまなんこのみやこもちかく天もちかく侍るとそうすこれをきかせ給ひてあふこともなみたにうかふわか身にはしなぬくすりもなにゝかはせんかのたてまつるふしのくすりに又つほくして御つかひに給はす勅使には月のいはかさといふ人をめしてするかのくにゝあなるやまのいたゝきにもてつくへきよしおほせ給峯にてすへきやうをしへさせ給ふ御ふみふしのくすりのつほならへて火をつけてもやすへきよしおほせ給ふそのよしうけ給てつはものともあまたくして山へのほりけるよりなんその山をふしの山とはなつけけるそのけふりいまた雲のなかへたちのほるとそいひつたへたる