定家様筆『伊勢物語』断簡


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書誌情報

・架蔵
・もと冊子の写本の見開きで、『伊勢物語』の第一〇一段全て、及び第一〇二段の大半を記す
・室町末期―江戸前期頃(16~17世紀)の写か?
・極札なく、またツレも管見の限り見ず、伝承筆者などは不明
・本文は学習院大学蔵本に極めてよく近似するも、僅かに異文あり
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昔左兵衛督なりける在原のゆきひらといふ有けり
その人の家によきさけありときゝてうへにありける左
中弁ふちはらのまさちかといふをなむまらうとさ
ねにてその日はあるしまうけしたりける情あるひとにて
かめに花をさせりその花のなかにあやしき藤の花
有けり花のしなひ三尺六寸はかりなむありけるそれ
を題にてよむよみはてかたにあるしのはらからなる
あるししたまふをきゝてきたりけれはとらへてよませ
けるもとより哥のことはしらさりけれはすまひけれ

としゐてよませけれはかくなむ
 さく花のしたにかくるゝ人をほみありしにまさる藤の影
                         かも※
なとかくしもよむといひけれはおほきおとゝのゑい花の
さかりにみまそかりて藤氏のことにさかゆるを思ひて
よめるとなむいひけるみな人そしらす成にけり
むかし男有けり哥はよまさりけれと世中を思ひし
りたりけりあてなる女のあまになりて世中をおもひ
うむして京にもあらすはるかなる山里にすみけりもと
しそく成けれはよみてやりける

<※行間にあり>