尊円真翰転写本『俊成三十六人歌合』
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書誌情報
・架蔵
・江戸のごく初期である慶長9年10月中旬(1604年12月初)の写
・巻子本、上巻分のみの零本 巻頭から数紙は虫損が激しい
・尊円親王の真筆本を転写した旨の、次のような奥書がある(画像参照)
右此一卷以尊圓親王真翰
冩置也
于時慶長九年十月中旬
「伝本は多くない」(国歌大観解題)というこの歌合においては貴重な新出資料と言える
・国歌大観本との本文異同は20箇所に及ぶ異本であり、
特に国歌大観本における39・中納言兼輔の歌が
国歌大観本:みかのはら わきてながるる いづみ川 いつみきとてか 恋しかるらむ
架 蔵 本:いつみ川 たえすなかるゝ みつのあわの うたかた人に あはてきえめや
となっており、全く異なる
12・伊勢の歌「おもひかは……」とほぼ同文であり、これが混入したものか
・なお、米国のジョン・C・ウェバー氏のコレクションに尊円筆の俊成三十六人歌合があるようであるが
写真を見るに欠落がある しかし、架蔵本にはその欠落がなく、仮名字母も異なるようで、その関係は未詳である
・この本文データ は クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承 4.0 国際 ライセンスの下に提供されています
・■:虫損により判読不能
・<N>:国歌大観における通し番号
・《A―B》:校異、底本―国歌大観本本文 の順に記す
三十六人歌合
一番
左 柿本人丸 <1>
たつた河もみち葉なかる
■なひのみむろの山■
しくれふるらし
右 紀貫之 <4>
しらつゆもしくれもいたく
もるやまはした葉のこらす
■みちしにけり 《■[も?]みちし―色付き》
左 <2>
■しひきの山とりのお の
したり尾のなか\/しよを
ひとりかもねん
右 <5>
■すふてのしつくにに■■
■まのゐのあかても人■
わかれぬるかな
左 <3>
■■めこか袖ふるやまの
■つかきのひさしき世より
おもひそめてき
右 <6>
よしの川いは■みたかく
■くみつのはやくも人 《はやくも―はやくぞ》
をおもひそめてし
二番
左 凡河内躬恒 <7>
■つくとも春のひかりはわか
■くにまたみよしのゝやまは
■きふる
右 伊勢 <10>
あひにあひてものおもふころ
のわか袖にやとる月さへ
ぬるゝかほなる
左 <8>
■みよしのまつを秋かせ
■くからにこゑうちそふる
おきつしらなみ
右 <11>
みわのやまいかゝまちみむ 《いかゝ―いかに》
としふともたつぬる人も
あらしとおもへは
左 <9>
伊勢のうみのしほやくあまの 《うみの―海に》
ふちころもなるとはすれと 《ふちころも―ぬれ衣》
あはぬ君かな
右 <12>
■■■川たえすなかるゝみ
■■あわのうたかた人■
あはてきえめや
三番
左 中納言家持 <13>
■■もくのひはらもいまた
■■■ねはこまつかは■に
■■ゆきそふる
右 山辺赤人 <16>
あすからはわかなつまんとし
めしのに昨日もけふも雪は
ふりつゝ
左 <15>
神なひのみむろのやまのくす
かつらうらふきかへすあきはき
にけり
右 <17>
もゝしきの大宮人はいとま
あれやさくらかさしてけふも
くらしつ
左 <14>
かさゝきのわたせるはしに
をくしものしろきをみれは
夜そふけにける
右 <18>
和哥のうらにしほみちくれは
かたをなみあしへをさして
たつなきわたる
四番
左 在原業平朝臣 <19>
はなにあかぬなけきはいつも
せしかともけふのこよひに
にるときはなし
右 僧正遍昭 <22>
いそのかみふるのやまへのさ
くらはなうへけむとき を
しる人そなき
左 <20>
月やあらぬ春やむかしの
はるならぬわか身ひとつはもと
の身にして
右 <23>
みな人ははなのころもになりに 《なりに―なりぬ》
けりこけのたもとよかはき 《けり―なり》
たにせよ
さ <21>
たかみそきゆふつけとりか
からころもたつたのやまにおり
はへてなく
右 <24>
すゑのつゆもとのしつくやよの
なかのをくれさきたつため
しなるらむ
五番
左 素性法師 <25>
われのみやあはれとおもはむ
きり\/すなくゆふかけ の
やまとなてしこ
右 紀友則 <28>
ゆふされはほたるよりけに
もゆれともひかりみねはや
人のつれなき
左 <26>
をとにのみきくのしらつゆよる 《よる―よるは》
をきてひるはおもひに
あへすけぬへし
右 <29>
あつまちのさやの中山なか\/
になにしか人をおもひ
そめけん
左 <27>
いまこんといひしはかりに
な■つきのありあけの月を
まちいてつるかな
右 <30>
したにのみこふれはくるし
たまのおのたえてみたれん
人なとかめそ
六番 <31>
左 猿丸大夫
おちこちのたつきもしらぬ
やまなかにおほつかなくも
よふことりかな
右 小野小町 <34>
花の色はうつりにけりな
いたつらに我身よにふる
なかめせしまに
左 <32>
日くらしのなくなるなへに 《なくなる―なきつる》
ひはくれぬとみしはやまの 《みし―おもふ》
かけにそありける
右 <35>
色みえてうつろふものはよの
中の人のこゝろのはな
にそありける
左 <33>
おくやまのもみちふみわけ 《やまの―山に》
なくしかのこゑきく時そ
秋はかなしき
右 <36>
あまのすむうらこくふねの
かちをたえ世をうみわたる
われそかなしき
七番
左 中納言兼輔 <37>
みしかよのふけ行まゝに
たかさこのみねのまつかせ吹
かとそきく
右 中納言朝忠 <40>
よろつ世のはしめとけふを
いのりをきていまゆくすゑは
神そかそへん 《かそへん―しるらむ》
左 <38>
あふさかのこのした露に
ぬれしよりわかころもては
いまもかはかす
右 <41>
あふことのたえてしなくは
中\/に人をも身をも
うらみさらまし
左 <39? カナリ異同セリ>
いつみ川たえすなかるゝ 《いつみ川たえすなかるゝ―みかのはらわきてながるる》
みつのあわのうたかた人に 《みつのあわのうたかた人に―いづみ川いつみきとてか》
あはてきえめや 《あはてきえめや―恋しかるらむ》
右 <42>
くらはしの山のかひよりはる
かすみとしをつみてやたち
はしむらん
八番
左 権中納言敦忠 <43>
ものおもふとすくる月かも 《月かも―月日も》
しらぬまにことしもけふに
はてぬとそきく 《とそ―とか》
右 藤原高光 <46>
春すきてちりはてにける
むめのはなたゝかはかりそ
枝にのこれる
左 <44>
伊せのうみの千ひろのはまに
ひろふともいまはなにかは 《なにかは―なにてふ》
かひかあるへき
右 <47>
かくはかりへかたくみゆる
よの中にうらやましくも
すめる月かな
左 <45>
身にしみておもふこゝろの
としふれはつゐに色にも
いてぬへきかな
右 <48>
みてもまた又も見まくの
ほしかりきはなのさかり 《ほしかりき―ほしかりし》
はすきやしぬらむ
九番
左 源公忠朝臣 <49>
たまくしけふたとせあはぬ
君か身をあけなからやは
みむとおもひし 《みむ―あらむ》
右 壬生忠峯 <52>
春たつといふはかりにや
みよしのゝやまもかすみて
けさはみゆらん
左 <50>
行やらて山ちくらしつ
ほとゝきすいまひとこゑの
きかまほしさに
右 <53>
夢よりもはかなきものは
なつのよのあかつきかたの
わかれなりけり
左 <51>
とのもりのとものみやつこ
心あらはこの春はかりあさ
きよめすな
右 <54>
ありあけのつれなくみえし
わかれよりあかつきはかり
うき物はなし
十番
左 女御徽子女王 <55>
袖にさへあきのゆふへは
しられけりきえしあさちか
露をかけつゝ
右 大中臣頼基朝臣 <58>
ひとふしにちよをこめたる
つゑなれはつくともつきし
君かよはひは
左 <56>
なれ行はうき世なれはや
すまのあまのしほやき
衣まとをなるらん
右 <59>
なくかりはゆくかかへるか
おほつかな春の宮にて
秋のよなれは
左
ぬるゆめにうつゝのうさも <57>
わすられておもひなくさむ
ほとそはかなき
右此一卷以尊圓親王真翰
冩置也
于時慶長九年十月中旬