武藤本『竹取翁物語』


[INDEX] > 武藤本『竹取翁物語』

書誌情報
・国文学者武藤元信旧蔵、現在は天理大学附属天理図書館蔵 天正本とも呼ばれる
・奥書に次のようにある

借伊賀前司神元純上原手終写功
自加一校畢
 天正廿年林鐘下旬記之
         也足子【花押】
 文禄五壬七六以松下民部少甫述久本重校正了
伊賀前司・神(上原)元純の手を借りて終に写し終えた
自らも一校し終えた
天正20年6月下旬(1592年7月末-8月初)これを記す
也足子
文禄5年閨7月6日(1596年8月29日)松下(民部少輔)述久の本を以て重校を正に終える

 すなわち、1592年に上原元純が書写した本を也足子(中院通勝)が校正し、4年後「松下本」を校合している
 元亀元年(1570)写の紹巴筆本が発見されるまでは、年代の明らかな最古の写本であった
 なお、中院通勝は更に2年後の慶長三年(1598)までに、久曾神甲本(同じく第1類だが
 特異な本文をもつ)の親本を書写したと見られる
・本文は流布本系第1類第1種
 中田氏が『竹取物語の研究 校異篇・解説篇』で指摘している通り、校合された「松下本」は中院通勝と交流のあった
 西洞院時慶の筆になる尊経閣文庫本(流布本系第3類第2種A群)と見られている
・この本文データ は クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承 4.0 国際 ライセンスの下に提供されていますクリエイティブ・コモンズ・ライセンス

・『竹取翁物語』(吉田幸一校、古典文庫・第二十二冊、1949年)収載の翻刻本文を「SmartOCR Lite Edition 1.0」によって読み取ったデータを底本とし、
 それを『天理図書館善本叢書和書之部 第二十九巻 竹取物語・大和物語』(天理図書館善本叢書和書之部編集委員会編、八木書店・1976)の影印を以て校正した
・見せ消ちを含めた傍書、補入、その他本文上の気になる点は全て*印を付し、ページ末尾にまとめて記す
・補入はほぼ全て小さな「◯」の記号を以てなされている
 当翻刻では全て[]で補入文を囲い、その挿入箇所を明示した
すなわち 「あか◯る」とあり、「◯」に「りた」と傍書する事を”補入「あか[りた]る」”で示す
・なお補入記号は稀に無い場合があり、そこは「補入記号なし」と注記した

いまはむかし竹とりのおきなといふもの有けり
野山にましりてたけをとりつゝよろつの
事につかひけり名をはさかきのみやつことなむ
いひけるその竹の中にもとひかる竹なむひと
すちありけりあやしかりてよりて見るに
つゝの中ひかりたりそれをみれは三すんはかりなる
人いとうつくしうてゐたりおきないふやうわか
あさことゆふことにみるたけの中におはするにて
しりぬ子となり給へき人なめりとて手にうち

いれて*いつゝもちてきぬめの女にあつけて
やしなはすうつくしき事かきりなしいとおさ
なけれはこにいれてやしなふ竹とりのおきな
竹をとるにこの子をみつけて*後に竹とりに
ふしをへたてゝよことにこかねある竹を見つくる
事かさなりぬかくておきなやう\/ゆたかになり
行このちこやしなふ程にすく\/とおほきになり
まさる三月はかりになるほとによきほとなる人
に成ぬれはかみあけなとさうしてかみあけ

させもきすちやうの*うちもいたさすいつきやし
なふこのちこのかたち*けそうなる事世にな
く屋のうちはくらき所なくひかりみちたり翁
こゝちあしくゝるしき時もこの子をみれはくるし
き事もやみぬはらたゝしきこともなくさみけり
おきな竹をとる事久しくなりぬいきおひ
まうのものに成にけりこのこいとおほき
に成ぬれは名をみむろといんへのあき
たをよひてつけさすあきたなよ竹のかくや

ひめとつけつこの程三日うちあけあそふよろつ
のあそひをそしけるおとこはうけきらはすよひ
つとへていとかしこくあそふせかいのをのこあてなる
もいやしきもいかてこのかくや姫をえてしかな
見てしかなとをとにきゝめてゝまとふそのあたり
のかきにも家のとにもをる人たにたはやすく
みるましき物を夜るはやすきいもねすやみのよ
に出てあなをくしりかひはみまとひあへりさる
時よりなむよはひとはいひける人の物ともせぬ

所にまとひありけともなにのしるしあるへくもみえ
す家の人ともに物をたにいはんとていひかゝれ
ともことゝもせすあたりをはなれぬ君たち夜
をあかし日をくらすおほかりをろかなる人はようなき
*あるきはよしなかりけりとてこす成にけり其
中になをいひけるは色このみといはるゝかきり
五人おもひやむ*時なくよるひるきけるその名とも
石つくりの御子くらもちのみこ左大臣あへのみ
むらし大納言*大伴のみゆき中納言いそのかみのま

ろたり此人々なりけり世中におほかる人をた
にすこしも*かたりよしときゝては見まほしう
する人ともなりけれはかくや姫をみまほしう
て*物をくはすおもひつゝかの家にゆきてたゝ
すみありきけれとかひあるへくもあらす文を
かきてやれと返事せすわひ哥なとかきて
おこすれともかひなしと思へと霜月しはすの
ふりこほりみな月のてりはたたくにもさはらす
きたりこの人々ある時は竹取をよひ出てむすめを

*吾にたへとふしをかみ手をすりのたまへとをのか
なさぬ子なれは心にもしたかはすなんあるといひ
て月日すくす*かゝれはこの人々家にかへり
て物をおもひいのりをし*願をたつ思やむ
へくもあらすさりともつゐにをとこあは
せさらむやはとおもひてたのみをかけたり
あなかちに心さしを見えありくこれを
みつけておきなかくや姫にいふやう我
子のほとけ*變化の人と申なからこゝらおほ

きさまてやしなひたてまつるこゝろさしを
ろかならすおきなの申さん事はきゝ給
ひてむやといへはかくや姫なにことをかのた
まはん事は*うけけたまはらさらむ變化の物
にて侍けん身ともしらすおやとこそ思たて
まつれといふ翁うれしくものたまふ物かな
といふおきなとし七十にあまりぬけふとも
あすともしらすこの世の人はおとこは女に
あふことをすをんなは男にあふ事をすその

のちなむ門ひろくもなり侍るいかてかさる
ことなくてはおはせんかくや姫のいはくなむ
てうさることかし侍らんといへはへんけの
人といふとも女の身もち給へり翁のあら
むかきりはかうてもいますかりなむかしこの
人々のとし月をへてかうのみいましつゝのた
まふことをおもひさためてひとり\/にあひ
たてまつり給ねといへはかくや姫いはく
よくもあらぬかたちをふかき心もしらてあた

心つきなはのちくやしき事もあるへきを
とおもふはかり也世のかしこき人なりとも
ふかき心さしをしらてはあひかたしと思
といふ翁いはくおもひのことくものたまふ
物かなそも\/いかやうなる心さしあらん人に
かあはむとおほすかはかり心さしおろかならぬ
人々にこそあめれかくや姫のいはくなにはかり
のふかきをかみんといはむいさゝかの事
也人の心さし*ひとしかんやいかてか中にをとり

まさりはしらむ五人のなかにゆかしき物をみせ
たまへらんに御心さしのまさりたりとてつかう
まつらんとそのおはすらん人々に申給へといふ
よき事なりとうけつ曰くるゝほとれいの
あつまりぬあるいは笛をふきあるいは哥
をうたひあるいはしやうかをしあるひはうそ
ふき扇をならしなとするに翁出ていはく
かたしけなくきたなけなる所にとし月を
へて物し給事きはまりたるかしこまりと

申す翁の命けふあすともしらぬをかくのた
まふ君たちにもよくおもひさためてつかふ
まつれと申もことはり也いつれもをとり
まさりおはしまさねは御心さしの程はみゆへし
つかふまつらむ事はそれになむさたむへきと
いへはこれよき事也人の御うらみもある
ましといふ五人の人々もよきことなりといへは
翁いりていふかくやひめいしつくりのみこには
仏の御いしのはちといふ物ありそれをとり

てたまへといふくらもちのみこには東の海に
ほうらいといふ山あるなりそれにしろかねをね
としこかねをくきとししろき玉をみとしてたてる
木ありそれ一枝おりて給はらんといふ今ひとり
にはもろこしにある火ねすみのかはきぬを給
へ大伴の大納言にはたつのくひに五色に
ひかる玉ありそれをとりて給へいそのかみの
中納言にはつはくらめのもたるこやす
のかいひとつとりてたまへといふ翁かたき

事ともにこそあなれこの国にある物にも
あらすかくかたき事をはいかに申さむといふかく
や姫何かかたからんといへは翁とまれかくまれ申
さむとて出てかくなむきこゆるやうに
いひ給へといへは御こたち*上達部きゝて
おいらかにあたりよりたになありきそとやは
のたまはぬといひてうんしてみなかへりぬ
猶この女みては世にあるましき心ちの
しけれは天竺にある物ももてこぬ物かはと

おもひめくらして石つくりのみこは心のしたく
ある人にて天竺に二となきはちを百千
*萬里の程ゆきたりともいかてかとるへきと
おもひてかくやひめのもとにはけふなん*天竺
石のはちとりにまかるときかせて三年
はかり*大和国とをちこほりにある山寺に
ひんつるのまへなるはちのひたくろに
すみつきたるをとりてにしきのふくろに
入てつくり花の枝につけてかくや姫の

家にもてきて見せけれはかくやひめあや
しかりて見るにはちの中に文ありひろけ
てみれは
 *海山の道に心をつくしはてないしのはちの
*涙なかれきかくやひめひかりやあるとみるに
ほたるはかりのひかりたになし
 をく露の*光をたにそやとさましをくら山にて
何もとめけんとて返しいたすはちを門にすてゝ
この哥の返しをす

 しら山にあへは光のうするかとはちを*捨ても
たのまるゝかなとよみていれたりかくや姫
*返しもせすなりぬみゝにもきゝ入さりけれは
いひかゝつらひてかへりぬかのはちをすてゝ
又いひけるよりそおもなき事をははちをすつ
とはいひけるくらもちのみこは心たはかりある
人にておほやけにはつくしの國にゆあみに
まからむとていとま申て*かくやひめの家には玉の
枝とりになむまかるといはせてくたり給に

つかふまつるへき人々みな*難波まて御をくり
しけるみこいとしのひてものたまはせて
人もあまたゐておはしまさすちかうつかうまつる
かきりして出たまひぬ御をくりの人\/見
たてまつりおくりて帰りぬおはしぬと人には
見え給て三日はかりありてこきかへりたま
ひぬかねて事みな仰たりけれはその時ひと
つのたからなりけるかちたくみ六人をめし
とりてたはやすく人よりくましき家をつくり

てかまとを三へにしこめてたくみらを入給つゝ
御こもおなし所にこもり給てしらせ*給たる
十六そをかみにくとをあけて玉の*枝つくり
給ふかくや姫のたまふやうにたかはすつくり
いてついとかしこくたはかりて*なにりにみそ
かにもて出ぬ舟にのりて帰りきにけりと
*殿につけやりていといたくゝるしかりたる
さましてゐたまへりむかへに人おほくまいり
たり玉の枝をはなかひつに入て物おほひ

てもちてまいるいつかきゝけんくらもちの
みこはうとんくゑの花もちてのほり給へり
とのゝしりけりこれをかくや姫きゝて
我はみこにまけぬへしとむねうちつふれて
思ひけりかゝる程にかとをたゝきてくらもち
のみこおはしたりとつくたひの御すかたな
からおはしたりといへはあひたてまつる御子の
たまはく命をすてゝかの玉の枝もちて
きたるとてかくや姫にみせたてまつり

給へといへは翁もちていりたりこの玉
の枝にふみそつきたりける
 いたつらに身はなしつとも玉の枝を手おりて*たゝに
帰らさらましこれをあはれともみてをるに竹とり
のおきなはしりていはくこの御子に申給ひ
しほうらいの玉のえたをひとつの所あやまたす
もておはしませりなにをもちてとかく申へき
たひの御すかたなからわか御家へもより給はすし
ておはしましたりはやこのみこにあひつかふ

まつり給へといふに物もいはてつらつゑを
つきていみしうなけかしけにおもひたり
このみこいまさへなにかといふへからすといふ
まゝにえんにはひのほり給ぬおきなことはり
に思ふにこの國にみえぬ玉の枝なりこの
たひはいかてかいなひ申さむさまもよき人に
おはすなといひゐたりかくや姫のいふやう
おやのゝ給ことをひたふるにいなひ申さん
ことのいとおしさにとりかたき物をかく

あさましくてもてきたる事をねたくおもひ
おきなはねやのうちしつらひなとすおき
なみこに申やういかなる所にかこの木は
さふらひけんあやしくうるはしくめてたき
物にもと申すみここたへてのたまはくさ
をとゝしのきさらきの十日ころに*難波
より舩にのりてうみの中にいてゝゆかむ
かたもしらすおほ*えしかと思ふことならて
は世中にいきてなにかせんとおもひしかは

たゝむなし風にまかせてありく命しな
はいかゝはせんいきてあらむかきりはかくあり
て*蓬莱といふらむ山にあふやとなみに
こきたゝよひありきてわかくにのはときなみ
うちを*はなれてありきまかりしにある*時は*浪
にあれつゝ海のそこにもいりぬへくあるとき
は風につけてしらぬ国にふきよせ
られておにのやうなるもの出きてころ
さんとしきある時にはきしかた行すゑ*も

しらすうみにまきれんとしきあるとき*は
*いはんかた*なたむくつけゝなるものきてくひ
かゝらんとしきある時にはうみのかひをとり
*く命をつくたひの空にたすけ給へ
き人もなき所にいろ\/のやまひをして
ゆくかたそらもおほえす舩の行にまかせて
うみにたゝよひて五百日といふたつの
時はかりに*海の中にはつかに山みゆ舟の
うちをなむせめて見るうみのうへにたゝよへる

山いとおほきにてありその山のさまた
かくうるはしこれやわかもとむるやまならむ
とおもひてさすかにおそろしくおほえて
山のめくりをさしめくらして二三日はかりみ
ありくに天人のよそほひしたる女山の中
より出きてしろかねのかなまるをもちて
水をくみありくこれを見て舟よりおりて
山の名をなにとか申とゝふ女こたへていは
くこれはほうらいの山なりとこたふこれ

をきくにうれしき事かきりなしこの女かく
のたまふはたれそとゝふわか名はうかんるり
といひて*ふし山の中にいりぬその山みるに
さらにのほるへきやうなしその山のそは
ひらをめくれは世中になき花の木と
もたてり*こかねるり色の水やまより
なかれいてたりそれには色々の玉のはし
わたせりそのあたりにてりかゝやく木
ともたてりその中にこのとりて*またて

きたりしはいとわろかりしかともの給しに
たかはましかはとこの花をおりて*またてき
たるなり山はかきりなくおもしろし世にたとふ
へきにあらさりしかと此枝をおりてし
かは*心もとなくて舟にのりておひ風ふき
て四百よ日になむ*またてきにし*大願力にや
なにはより昨日なむみやこにまうてきつる
さらにしほにぬれたるころもをたにぬきか
へなてなん*くち*またてきつるとのたまへは

*翁うちなけきてよめる
 くれ竹のよゝの竹とり野山にもさやはわひしき
ふしをのみみしこれを御こ聞て*こゝら日ころ
おもひわひ侍る心はけふなんおちゐぬるとのた
まひて返し
 わか*袂けふかはけれは*侘しさのちくさの数も
忘られぬへしとの給かゝる程におとことも
六人つらねて*庭に出きたり一人の男*ふみ
はさみに文をはさみて申*くもんつかさの

たくみあやへのうちまろ申さく玉の木をつ
くりつかふまつりし事五こくをたちて千
*余日に力をつくしたることすくなからすしかる
にろくいまた給はらすこれを給てけこに
給せんといひてさゝけたり竹とりの翁
このたくみらか申ことはなに事そかたふき
をり御子はわれにもあらぬけしきにてきも
きえゐ給へりこれをかくやひめきゝて
このたてまつる文をとれといひて見れは

文に申けるやうみこの君千日いやしきたく
みらともろともにおなし所にかくれゐた
まひてかしこき玉のえたつくらせ給てつか
さも給はむとおほせ給きこれをこのころ
あんするに御つかひとおはしますへきかく
やひめのえうし給へきなりけりとうけた
まはりて此宮より給はらんと申て給はるへ
きなりといふをきゝてかくや姫のくるゝ
まゝに思ひわひつるこゝち*わつらひさかへておき

なをよひとりていふやうまことにほうらい
の木かとこそおもひつれかくあさましきそら
ことにてありけれははやとく返し給へと
いへは翁こたふさたかにつくらせたる物と
きゝつれは返さむ事いとやすしとうなつ
きて*をりかくや姫の心ゆきはてゝあり
つる哥の返し
 まことかときゝて見つれは言のはをかされる*玉の
枝にそありけるといひて玉の枝も返し

つ竹とりのおきなさはかりかたらひつるかさすか
におほえてねふりをり御子はたつもはした
ゐるもはしたにてゐ給へり日の暮ぬれは
すへり出給ぬ*かうれへをしたるたくみをは
かくや姫よひすへてうれしき人ともなり
といひてろくいとおほくとらせ給たくみ
*らいみしくよろこひおもひいつるやうにもある
かなといひてかへる道にて*くらころのみこち
のなかるゝまて*調せさせ給ろくえしかひ

もなくみなとりすてさせ給てけれはにけう
せにけりかくてこのみこは一しやうのはち
これにすくるはあらし女をえす成ぬるのみ
にあらす*天下の人の見おもはん事のはつ
かしき*事のたまひてたゝ一ところふか
き山へ入給ぬ宮つかささふらふ人々みな
手をわかちてもとめたてまつれとも御し
にもやしたまひけんえみつけたてまつらす
なりぬ御子の御ともに*かへし給はんとて

年ころ見え給はさりけるなりけりこれを
なむ玉さかるとはいひはしめける*右大臣あへ
のみむらしはたからゆたかに家ひろき人にそ
おはしけるその年きたりけるもろこしふね
のわうけいといふ人のもとに文をかきて
火ねすみのかはといふなる物かひておこせよ
とてつかうまつる人の中に心たしかなるを
えらひて*小野のふさもりといふ人をつ
けてつかはすもていたりてもろこしに

をるわうけいにこかねをとらすわうけい
文をひろけてみて返事かく火ねすみ
のかは*衣此国になき物也をとにはきけ
ともいまた見ぬなりよにあるものならは
このくにゝももてまうてきなましいとかたき
あきなひなりしかれとももし*天竺にたま
さかにもてわたりなは*長者のあたりにとふら
ひもとめむになき物ならはつかひにそへ
てかねをは返したてまつらむといへりかの

もろこし*舩きけり*小野のふさもりまう
てきてまうのほるといふ事をきゝてあ
ゆみとうする馬をもちて*はしらせてかへ
させ給ときにむまにのりてつくしよりたゝ
七日にのほり*またて*文をみるにいはく火
ねすみのかは衣からうして人をいたしてもと
めたてまつるいまの世にもむかしの世にも
此かはゝたはやすくなき物也けりむかしかし
こき*天竺のひしりこの国にもてわたり

て侍ける*西の山寺にありときゝをよひて
おほやけに申てからうしてかひとりて
たてまつるあたいのかねすくなしと*こく
しつかひに申しかはわうけいか物くはへ
てかひたりいまかね五十両たまはるへし
舟のかへらむにつけてたひをくれもしかね
*たまはぬならは*かの衣のしち返したへと
いへることをみてなにおほすいまかねす
こしに*こそあなれかならすをくるへき物に

こそあなれうれしくしておこせたるかなとて
もろこしのかたにむかひてふしをかみ給この
かはきぬいれたるはこをみれはくさ\/のうる
はしきるりを*色えてかは*きぬをみれは
*こんしやうの毛のすゑにはこかねのひかり
しさゝきたりたからと見えうるはしき事
ならふへき物なし火にやけぬ事よりもけ
うらなることならひなし*うへかくや姫このも
しかり給にこそありけれとのたまふて

あなかしことてはこにいれ給てものゝ枝
につけて*御身のけさう*いといたくして
やかてとまりなんものそとおほして哥よ
みくはへてもちていましたりその哥は
 *限なきおもひにやけぬかは*衣*の*袂かはきて
けふこそはきめといへり家のかとにもて
いたりて*たてり竹とり出きてとりいれ
てかくや姫にみすかくや姫のかはきぬ
を見ていはくうるはしきかはなめりわきて

まことのかは*いらむともしらす竹とりこたへ
ていはくとまれかくまれ*しやうし入たて
*まつらむ*世中に見えぬかはきぬのさま
なれはこれをとおもひ給ね人ないたくわひ
させ給たてまつらせ給そといひてよひすへ
たてまつれりかくよひすへてこのたひは
かならすあはむと女の心にもおもひをりこの
翁はかくや姫の*やめなるをなけかし
けれは*人にあはせんと思ひはかれと

せちにいなといふ事なれはえしいねは
ことはり也かくや姫おきなにいはくこの
皮きぬは火にやかんにやけすはこそま
ことならめとおもひて人のいふことにも
まけめ世になき物なれはそれをまこと
とうたかひなく思はんとのたまふ猶これを
やきて心みんといふおきなそれさもいは
れたりといひて*大臣にかくなん*申といふ
大臣こたへていはくこのかはゝもろこしにも

なかりけるをからうしてもとめたつねえた
る也なにのうたかひあらむさは申ともはや
やきて見給へといへは火のなかにうち
くへてやかせ給にめら\/とやけぬされは
こそこと物のかはなりけりといふ大臣これ
をみたまひてかほは草の*葉の色にて*居
給へりかくや姫はあなうれしとよろこひて
ゐたりかのよみ*給へる哥の返しはこに入
てかへす

 なこりなくもゆとしりせはかは衣思ひの外に
をきてみましをとそありけるされはかへ
りいましにけり世の人\/あへの大臣火ね
*みのかは衣もていましてかくやひめにすみ
給ふとなこゝにやいますなとゝふある人のいは
くかはは火にくへてやきたりしかはめら\/と
やけにしかはかくや姫あひ給はすといひ
けれはこれをきゝてそとけなき物を
はあへなしといひける*大伴の*みゆの*大納言は

わか家にありとある人めしあつめてのた
まはくたつのくひに*五色にひかる玉あな
りそれとりてたてまつりたらむ人には
ねかはんことをかなへんとのたまふおのこと
もおほせの事をうけたまはりて*いとも
たうとしたゝしこの玉たはやすくえ
とらしをいはむや*たつのくひの玉は
いかゝとらむと申あへり*大納言*のの給
てんのつかひといはんものは命をすてゝ

もをのか君の仰ことをはかなへんとこそ思ふ
へけれこの国になき*天竺もろこしの
物にもあらす此くにの海山よりたつは*をり
のほる物也いかにおもひてか*きんちくかた
きものと申へきおのことも申やうさらは
いかゝはせむかたき事なりともおほせ
ことにしたかひてもとめまからむと申に
*大納言見はらゐてなむちらか君のつかひ
と*名をなかしつ*君の*仰ことをは**いかゝ

そむくへきとの給てたつのくひの玉
とりに*とく*いたし給この人々のみちのかて
くひ物にとのうちのきぬわたせになとある
かきりとりいてゝそへてつかはすこの人々
とも帰るまていもゐをして吾はをらん
この玉とり*えては家にかへりくなとのた
まはせけりをの\/おほせうけたまはりて
まかり出ぬたつのくひの玉とり*え*すは
かへりくなとのたまへはいへちもいつちもあし


のむきたらんかたへ*いなむとかゝるすき
事をしたまふことゝそしりあへり給はせ
たる物をの\/わけつゝとるあるいはをのか家
にこもりゐあるいはをのかゆかまほし
き所へいぬおや君と申ともかくつき
なきことを仰給ふことゝ事ゆかぬ物ゆへ
大納言をそしりあひたりかくや姫すへん
にはれい*のやうには見にくしとの給て
うるはしき屋をつくり給てうるしをぬり


うき*ゑして**かつし給て屋のうへにはいとを
そめて色\/*にふかせてうちしつらひ
にはいふへくもあらぬあやをり物にゑを
かきてまことにはりたりもとのめとも
はかくや姫をかならすあはんまうけして
ひとりあかしくらし給つかはしし人はよる
ひるまち給に年こゆるまてをとも
せす心もとなかりていとしのひてたゝと
ねり二人めしつきとしてやつれ給て

なにはの*邊におはしましてとひ給事
は*大伴の大納言*殿の人や舟に*のりて
たつころして*そかくひの玉とれるとやきく
とゝはするに*舩人こたへていはくあやし
き事かなと*わらひてさるわさするふねもなし
とこたふるにをちなき事する舟人にも
あるかな*えしらてかくいふとおほしてわか
ゆみのちからはたつあらはふといころして
くひの玉はとりてん*をそくゝるやつはらを

またしとの給てふねにのりてうみこと
にありき*賜にいとゝをくてつくしのかた
の*海にこき**出ぬいかゝしけんはやき
風ふきてせかいくらかりて舟を*吹もて
ありくいつれのかたともしらすふねをうみ
中にまかり入ぬへくふきまはして*浪は舟
にうちかけつゝまきいれ*神はおちかゝる
やうにひらめくかゝるに大納言はまとひて
またかゝるわひしきめ見すいかならんとする

そとの給ふかちとりこたへて*申*こゝら舩に
のりて*まかりくにまたかくわひしきめを
見す*みふねうみのそこにいらすは神おち
かゝりぬへし*もしさいはひに神のたすけ
あらはみなみの海にふかれおはしぬへし
*うたてあるぬしのみもとにつかうまつりて
すゝろなるしにをすへかめるかなとかち
とりなく大納言これをきゝての給はく舩に
のりてはかちとりの申ことをこそ*たかき山

とたのめなとかくたのもしけなく申そと
あをへとをつきての給*うちとりこたへて
申神ならねはなにわさをつかうまつらむ
風ふき*浪はけしけれともかみさへいたゝ
きにおちかゝるやうなるたつをころ
さんともとめ給へはあるなりはやてもり
うのふかする也はや神にいのりたまへといふ
よき事也とてかちとりの御神きこし
めせをとなく心おさなくたつをころさむ

とおもひけりいまより後は*毛のすゑ一すち
をたにうこかしたてまつらしとよことをは
なちてたちゐなく\/よはひ給事千たひ
はかり申給ふけにやあらんやう\/かみなり
やみぬすこしひかりて風はなをはやく*吹
かちとりのいはくこれはたつのしわさに
こそありけれ*吹かせはよきかたの風なり
あしきかたの風にはあらすよきかたにおも
むきてふくなりといへとも*大納言これを

きゝいれ給はす三四日*吹てふきかへし
よせたりはまをみれははりまのあかしの
はま*也大納言*南海のはまにふきよせら
れたるにやあらん*といきつきふし給へり舩に
あるおのことも國に*つけたれとも國のつ
かさ*またてとふらふにもえおきあかり給はて
ふなそこにふし給へり松原に*ひむしろ
しきておろしたてまつるその時にそ*南海に
あらさりけりとおもひてからうしておきあ

かり給へるをみれは風いとおもき人にて
はらいとふくれこなたかなたの目にはすもゝ
をふたつゝけたるやう也これを*見てそ国の
つかさもほうゑみたるくにゝおほせ給て
たこしつくらせ給てによう\/になはれ
給て家に入給ひぬるをいかて*かきゝけん
つかはしゝをのこともまいりて申やうたつ
のくひの玉をえとらさりしかは*南*殿へもえ
まいらさりし玉のとりかたかりし事をしり

給へれはなんかむたうあらしとてまいりつる
と*申*大納言おきゐてのたまはくなむ
ちらよくもてこすなりぬたつはなる*神の*る
いにこそありけれそれか玉をとらむとてそ
こらの人々のかいせられなむとしけりま
してたつを*とらへましかは又こともなく我はかいせら
れなましよくとらへすなりにけりかくや姫
てうおほぬす人のやつか人をころさんと
するなりけり家のあたりたにいまはとをらし

をのこともなありきそとてゝ家に*すこし
のこり*たりける物ともはたつの玉をとら
ぬものともにたひつこれをきゝては
なれ給ひしもとのうへははらをきりて
わらひ給いとをふかせつくりし屋はとひ
からすのすにみなくひもていにけり*世界*の
人のいひけるは*大伴の大納言はたつのくひの
玉やとりておはしたるいなさもあらすみま
なこ二にすもゝのやうなる玉をそゝへてい

ましたるといひけれはあなたへかたといひ
けるよりそ世にあはぬ事をはあなたへかた
とはいひはしめける中納言いそのかみのまろ
たりの家につかはるゝをのことものもとに
つはくらめのすくひたらはつけよとのた
まふをうけたまはりて何のようにかあらんと
申こたへての給やうつはくらめのもたる
こやすのかひをとらむれう也とのたまふを
のこともこたへて申つはくらめをあまた

ころして見るたにもはらになにもなき
物也たゝし子うむ時なんいかてかいたすら
む*はらくかと申人たにみれはうせぬと申
又人の申やうほおほいつかさのいひかしく
屋のむねに*つくのあなことにつはくらめは
すをくひ侍るそれにまめならむをのこと
もをいてまかりてあくらをゆひあけて
*うかゝはせんに*そこらつはくらめこうまさら
むやはさてこそとらしめ給はめと申*中

*納言よろこひ給ておかしき事にもある
かなもつともえしらさり*つるけうあること申
たりとの給てまめなるをのことも廿
人はかりつかはして*あなゝいにあけすへられ
たり*殿よりつかひひまなくたまはせてこや
すの*貝とりたるかととはせ給つはくらめも
人のあまたのほりゐたるにおちてすにも
のほりこすかゝるよしの返事を申た
れはきゝ給ていかゝすへきとおほし

わつらふにかのつかさの*官人くらつまろと申
翁申やうこやすかいとらんとおほしめさは
たはかり申さんとて御前にまいりた
れは中納言ひたひをあはせてむかひ給へ
りくらつまろか申やう此つはくらめ*こやす
かひはあしくたはかりてとらせ給なりさては
えとらせ給はしあなゝいにおとろ\/しく
廿人の人のゝほりて侍れはあれてより
*またてこすせさ*せ給へきやうはこの

あなゝいをこほちて人みなしりそきてまめ
ならん人ひとりをあらこにのせすへてつなを
かまへて*鳥の*子うまむあひたにつなをつり
あけさせてふとこやすかひをとらせ給
はんなむよかるへきと申中納言の給やう
いとよき事也とてあなゝいをこほし人
みなかへりまうてきぬ中納言くらつまろ
にのたまはくつはくらめはいかなる時にか子
うむとしりて人をはあくへきとの給くらつ

まろ申やうつはくらめ子うまむとする時は
おをさゝけて七とめくりてなんうみおとす
めるさて七とめくらむおりひきあけてその
おりこやすかひはとらせ給へと申中納言
よろこひ給てよろつの人にもしらせ給
はてみそかにつかさにいましてをのことも
の中にましりて夜るをひるになしてとらしめ
給くらつまろかく申をいといたくよろこひ
てのたまふこゝにつかはるゝ人にもなきにねかひ

をかなふることの*うれしきとのたまひて御そぬ
きてかつけ給つさらによさりこのつかさに
*またてことの賜てつかはしつ日くれぬれは
かのつかさにおはしてみたまふにまことに
つはくらめすつくれりくちつまろ申やうを
うけてめくるにあらこに人をのほせてつり
あけさせてつはくらめのすに手をさし入さ
せてさくるに物もなしと申に中納言あし
くさくれはなき也とはらたちてたれはかり

おほえんにとて*吾のほりてさくらむとのた
まふてこにのりてつられ*のほりてうかゝひ
給へるにつはくらめ尾をさゝけていた
くめくるにあはせて手をさゝけてさくり
給に手にひらめる物さはる時にわれ物に
きりたりいまはおろしてよおきなしえ
たりとの給あつまりてとくおろさん
とてつなをひきすくしてつなたゆるすな
はちにやしまのかなへのうへにのけさまに

おち給へり人々あさましかりてよりてかゝへ
たてまつれり御めはしらめにてふし給へり
人\/水をすくひ入たてまつるからうして
いき出給へるに又かなへのうへより手とり
あしとりしてさけおろしたてまつる*かうし
て御こゝちはいかゝおほさるゝととへはいき
のしたにて物はすこしおほゆれともこし
なんうこかれぬされとこやすかひをふとに
きりもたれはうれしくおほゆる也まつ

しそくさしてこゝの貝かほ見んと御くしも
たけて御手をひろけ給へるにつはくらめ
のまりおける*くそをにきり給へるなりけり
それを見たまひてあなかひなのかさやと
の給けるよりそおもふにたかふ事をはかひ
なしとはいひけるかひにもあらすと見給ける
に*御こゝちもたかひてからひつの*いれられ
給へくもあらす御こしはおれにけり中納言
は*いゝいけたるわさしてやむことを人に

きかせしとし給けれとそれをやまひにて
いとよわく成たまひにけりかひをは*とらす
なりにけるよりも人のきゝわらはんことを
日にそへておもひ給ひけれはたゝにやみ
しぬるよりも人きゝはつかしくおほえ
給なり*けりこれをかくや姫きゝてと
ふらひにやるうた
 年をへて*浪たちよらぬ住の江の松かひなしと
きくはまことかと*あるよみてきかす

いとよはきこゝろにかしらもたけて人に
かみをもたせてくるしきこゝちにからう
してかき給
 かひは*なく有ける物をわひはてゝしぬる命を
すくひやはせぬとかきはつるたえ入給
ひぬこれをきゝてかくや姫すこしあはれと
*おほえけりそれよりなんすこしうれし
き事をはかひありとはいひけるさてかくや姫
かたちの世にゝすめてたきことを御門きこし

めして内侍なかとみのふさこにのたまふお
ほくの人の身をいたつらになしてあはさなる
かくや姫はいかはかりの女そとまかりて見て
まいれとの給ふさこうけたまはりてま
*もれり竹とりの家にかしこまりてしやうし
いれてあへり女に*内侍のたまふおほせ
ことにかくやひめのうちいうにおはす也よく
見てまいるへきよしのたまはせつるになむ
まいりつるといへはさらは*申侍らんといひ

て入ぬかくやひめにはやかの御つかひにたい
めんし給へといへはかくや姫よきかたち
にもあらすいかてかみゆへきといへはうたて
もの給ふかな御門の*君の御つかひをは
いかてかおろかにせむといへはかくや姫のこ
たふるやう御かとのめしてのたまはん事
かしこしともおもはすといひてさらにみゆ
へくもあらすむめる子のやうにあれと
いと心はつかしけにをろそかなるやうに

いひけれはこゝろのまゝにもえせめす*内侍
のもとにかへり出てくちおしくこのおさな
きものはこはく侍るものにてたいめんす
ましきと申*内侍かならす*みてまいれと
おほせ事ありつるものを見たてまつら
てはいかてかかへりまいらむ*国王の仰ことを
まさによにすみ給はん人のうけたまはり給はて
*有なむやいはれぬ事なし給ひそとこと
*葉はつかしくいひけれはこれをきゝて

ましてかくや姫きくへくもあらす*國王の
おほせことをそむかははやころし給ひてよ
かしといふ此*内侍かへりこのよしを
*奏す御門きこしめしておほくの人こ
*ろしける心そかしとの給てやみにけれ
と*おほしおはしましてこの女のたはかり
にやまけむとおほしておほせ給なんちか
もちて侍るかくや姫たてまつれかほかた
ち*はしときこしめして御つかひをたひ

しかとかひなく見えす成にけりかくたい
\/しくやはならはすへきとおほせらるおきな
かしこまりて御返事申やう此めのわらはゝ
たへて宮つかへつかうまつるへくもあらす侍る
をもてわつらひ侍さりともまかりておほせ
*事たまはんと*奏*すこれをきこしめして
おほせ給なとかおきなの手におほしたて
たらむものを心にまかせさらむこの女もし
たてまつりたるものならはおきなにかう

ふりをなとかたまはせさらん翁*よろこひ
て家にかへりてかくや姫にかたらふやうかく
なむみかとのおほせ給へるなをやはつかう
まつり給はぬといへはかくや姫こたへていは
くもはらさやうの宮つかへつかうまつらしと
思ふをしゐてつかうまつらせ給はゝきえ
うせなんすみつかさかうふりつかうまつり
てしぬはかり也おきないらふるやうなし給
つかさかうふりもわか子をみたてまつらては

なにゝかはせむさはありともなとか宮つかへをした
まはさらむしに給へきやうやあるへきといふ猶
そら事かとつかうまつらせてしなすやあると
見給へあまたの人の心さしおろかならさりしを
むなしくなしてしこそあれ昨日けふ御かとのゝ給はん
*ことにきゝやさしといへは翁こたへていはく
*てんか事はとありともかゝりともみいのちの
*あやうさこそおほきなるさはりなれは猶つかう
まつるましき事をまいりて申さんとてまいりて

申やう仰の事をかしこさにかのわらはをまいら
せむとてつかうまつれは宮つかへに出したてはしぬ
へしと申宮こまろか手にうませたる
子にもあらすむかし山にてみつけたるかゝれは
心はせも世の人にゝす侍とそうせさす御門仰
*給みやつこまろか家は山もと*ちかくなり御
かりみゆし給はんやうにてみてんやとのた
まはす*宮つこまろ申やういとよき事也なに
か心もなくて侍らんにふとみゆきして*御覧

せむ御覧せられなむと*奏すれは御門にはかに
日をさためて御かりに出給ふてかくや姫の家に
入給ふて見給にひかりみちてきよらにてゐた
る人ありこれならんとおほしてちかくよらせ給
にゝけている袖をとらへ給へはおもてをふたき
て候へとはしめよく御らんしつれはたくひなくめて
たくおほえさせ給てゆるさしとすとていて
おはしまさんとするにかくや姫こたへ奏すをの
か身は此国にむまれて侍らはこそつかひ給はめ

いといておはしましかたくや侍らんとそうす御門
なとかさあらん猶いておはしまさんとて御
こしをよせ給にこのかくや姫きとかけになり
ぬはかなくゝちおしとおほしてけにたゝ人
にはあらさりけり*とさらは御とりにはいて
いかしもとの御かたちとなり給ひねそれを
見てたに帰なむとおほせらるれはかくや姫
もとのかたちに成ぬ御門なをめてたく

宮つこまろをよろこひ*給ひさてつかうまつる
*百官人々あるしいかめしうつかうまつる御門かく
や姫をとゝめてかへり給はんことをあかすくちおし
く覚しけれと玉しゐをとゝめたるこゝちして
なむかへらせ給ける御こしにたてまつり
て後にかくや姫に
 帰るさのみゆき物うくおもほえてそむきてとまる
かくやひめゆへ 御かへりこと
 むくらはふ下にも年はへぬる身の何かは玉の

うてなをも見むこれを御門御らんして*いかゝ
かへり給はんそらもなくおほさる御心はさらに
たちかへるへくもおほされさりけれとさり
とて夜をあかし給へきにあらねはかへらせ給
ぬつねにつかうまつる人を見たまふにかく
や姫のかたはらによるへくたにあらさりけり
こと人よりはけうらなりとおほし*けり人の
かれにおほしあはすれは人にもあらすかく
や姫のみ御こゝろにかゝりてたゝひとり

すみし給よしなく御かた\/にもわたり給はす
かくや姫の御もとにそ御文をかきてかよはせ
給御かへりさすかにゝくからすきこえかはし給
ておもしろく木草につけても御哥をよみ
てつかはすかやうに御心をたかひになくさめ
給ほとに三とせはかりありて春のはしめより
*月の*おもしろ出たるをみてつねよりも物思ひ
たるさまなりある人の*月かほみるはいむこと*に
せいしけれ共ともすれはひとまにも月をみて

はいみしくなき給ふ七月十五日の月にいて
ゐてせちに物おもへるけしきなりちかくつか
はるゝ人々竹とりの翁につけていはく
かくや姫のれいも月をあはれかり給へとも
このころとなりてはたゝことにも侍らさめり
いみしくおほしなけく事あるへしよく\/
みたてまつらせ給へといふをきゝてかくや姫
にいふやうなんてう心ちすれはかく物を思ひ
たるさまにて月を*みたまふそうましき世に

といふかくや姫みれはせけんこゝろほそく
あはれに侍るなてう物をかなけき侍へきと
いふかくや姫のある所にいたりて見れはなを
物思へるけしきなりこれをみてあるほと
けなに事思ひたまふそおほすらんことなに
ことそといへはおもふこともなし物なむ心ほそ
くおほゆるといへは翁月な見給そこれを
見給へは物おほす*けしきあるそといへは
いかて月をみてはあらんとて猶月いつれは

いてゐつゝなけきおもへり夕やみには*物おも
はぬけしき也月の程に成ぬれは猶時々は
うちなけきなとすこれをつかふものとも
なを物おほす事あるへしとさゝやけと
おやをはしめてなにことゝもしらす八月十五日
はかりの月に出*居てかくや姫いといたくなき
給人めもいまはつゝみ給はすなき給これを
見ておやともゝなに事そとゝひさはくかく
や姫なく\/いふさき\/も申さむとおもひし

かともかならす心まといし給はん物そと思ひ
ていまゝてすこし侍りつるなりさのみやはとて
うちいて侍りぬるそをのか身はこの国の人
にもあらす月のみやこの人なりそれを*なん
*昔のちきりありけるによりなんこのせかい
にはまうてきたりけるいまはかへるへきにな
りにけれはこの月の十五日にかのもとの国
より*むかひに人々まうてこんすさらすまかり
ぬへけれはおほしなけかんかかなしきことをこ

の春よりおもひなけき侍る也といひていみ
しくなくを翁こはなてう事のたまふそ
竹の中よりみつけきこえたりしかとなた
ねのおほきさおはせしをわかたけたちなら
ふまてやしなひたてまつりたる我子を
なに人かむかへきこえんまさにゆるさんやと
いひてわれこそしなめとてなきのゝしる事
いとたへかたけ也かくや姫のいはく月の
宮この人にてちゝはゝありかた時のあひた

とてかの国よりまうてこしかともかくこのくに
にはあまたのとしをへぬるになん有ける
かの国のちゝ母の事もおほえすこゝにはかく
久しくあそひきこえてならひたてまつれり
いみしからむ心ちもせすかなしくのみある
されとをのか心ならすまかりなむとすると
いひてもろともにいみしうなくつかはるゝ
*人にも年ころならひたちわかれなむことを
こゝろはへなとあてやかにうつくしかりつる

事を見ならひて恋しからむことのたへかたく
ゆ水のまれすおなし心になけかしかり
けりこの事を御門きこしめして竹とり
か家に御つかひつかはさせ給御つかひにたけ
とり出あひてなく事かきりなし此事
をなけくにひけもしろくこしもかゝまり
めもたゝれにけりおきなことしは五十はかり
なりけれとも物おもふにはかた時になむ
老になりにけるとみゆ御つかひおほせ

事とて翁にいはくいと心くるしく物おもふなる
はまことかとおほせ給竹とりなく\/申この十
五日になん月のみやこよりかくや姫の*むかひ
にまうてくなるたうとくとはせ給この十五日
は人々たまはりて月の宮この人まうてこは
とらへさせんと申御使かへりまいりて翁の
ありさま申て*そうつる事とも申をきこ
しめしての給一めみたまひし御心にたに
わすれ給はぬにあけくれみなれたるかくや

姫をやりてはいかゝ思ふへきかの十五日つかさ
\/におほせて*勅使*少将*高野のおほくにと
いふ人をさして六衛のつかさあはせて二千
人の人を竹とりか家につかはす家にま
かりて*ついちの上に千人家の人々いと
おほかりけるにあはせてあけるひまもなく
まもらすこのまもる人々も弓矢をたいし
ておもやのうちには女ともをはんにをりて
まもらす女ぬりこめのうちにかくや姫を

いたかへてをり翁ぬりこめの戸をさして
とくちにをりおきなのいはくかはかりまもる
所に天の人にもまけむやといひて屋の
うへにをる人々にいはくつゆも物をらにかけ
らはふといころし給へまもる人\/のいはく
かはかりしてまもる所にはり一たにあらは
まつ*いとろしてほかにさらんと思ひ侍るといふ
おきなこれをきゝてたのもしかりけりこれ
をきゝてかくや姫はさしこめてまもりたゝ


かふへきしたくみをしたりともあの國の
人をえたゝかはぬ也ゆみやしていられしかく
さしこめてありともかのくにの人こはみな
あきなむとすあひたゝかはんことすともかの
國の人きなはたけき心つかふ人もよも
あらしおきなのいふやう御むかへにこむ人を
はなかきつめしてまなこをつかみつふさん
さかゝみをとりてかなくりおとさむさかしり
をかきいてゝこゝらのおほやけ人に見せ

てはちをみせんとはらたちをるかくや姫
いはくこはたかになのたまひそ屋のうへに
をる人とものきくにいとまさなしいますかりつる心
*さしおもひもしらてまかりなむする事のくちおし
う侍けりなかき*契のなかりけれは程なくまか
りぬへきなめり*思ふかゝなしく侍る也おやたち
のかへりみをいさゝかたにつかうまつらてまか
らむみちもやすくもあるましき日比
もいてゐてことしはかりのいとまを申つれと

さらにゆるされぬによりてなむかく思ひ*歎き
侍るみこゝろをのみまとはしてさりなむことの
かなしくたへかたく侍る也かのみやこの人は
いとけうらにおいをせすなんおもふ事も
なく侍る也さる所へまからむするもいみしく
も侍らすおいおとろへ給へるさまをみたて
まつらさらむこそ恋しからめといひて翁む
ねいたき事なしたまひそうるはしきすかた
したるつかひにもさはらしとねたみをりかゝる

程によひ*すきてねの時はかりに家のあたり
ひるのあかさにもすきてひかりわたりもち
月のあかさを十あはせたるはかりにてある
人のけのあなさへみゆるほとなり大そらより
*ひと*雲にのりておりきてうちより五
尺はかり*あかる程にたちつらねたりこれ
をみてうちとなる人の心とも物におそはるゝ
やうにてあひたゝかはん心もなかり*けり
からうしておもひおこして弓矢をとりたてん

とすれとも手にちからもみやなりて*なえかゝ
りたり中に心さかしきものねんしていんと
すれともほかさまへいきけれはあれも
たゝかはて心ちたゝしれにしれてまもり
あへりたてる人ともは*装束のきよらなる
こと物にもにすとふ*車一くしたり羅かいさし
たりその中にわうとおほしき人家に宮
つこまろまうてこといふにたけくおもひ
つるみやつこまろも物にゑひたるこゝちして

うつふしにふせりいはくなんちおさなき人
いさゝかなるくとくをおきなつくりけるにより
てなんちかたすけにとてかた時のほとゝて
くたしゝをそこらの年ころそこらのこかね給
て身を*かへたること成にたりかくや姫はつみ
をつくり給へりけれはかくいやしきをのれ
かもとにしはしおはしつる也つみのかきり
はてぬれはかくむかふるを翁はなき*歎く
あたはぬ事也はや出したてまつれといふ

おきなこたへて申かくや姫をやしなひたて
まつることに廿*余*年に成ぬかた時との給ふに
あやしく成侍ぬ又こと所にかくやひめと
申人そおはすらんといふこゝにおはするかく
や姫はおもきやまひをし給へはえ*いて
おはしますましと申せは*そ返事はなく
て屋のうへにとふくるまをよせていさかく
や姫きたなき所にいかてか久しくおは
せんといふたてこめたるところの戸すなはち

たゝあきにあきぬかうしともゝ人はなくして
あきぬ女いたきてゐたるかくや姫とに出ぬえ
とゝむましけれはたゝさしあふきてなきをり
竹とり心まとひみやきふせる所によりてかくや
*姫こゝ*に心にもあらてかくまかるにのほらんをた
にみをくり給へといへともなにしにかなしきに
見をくり*たてまつらむ我をいかにせよとてす
てゝはのほり給ふそくして出おはせねとなき

まからむ恋しからむおり\/とり出て見給へとてうち
なきてかくこと*葉は此*国にむまれぬるとなら
はなけかせたてまつらぬほとまて侍らてすき*別
ぬる事返々ほいなくこそおほえ侍れぬき
をくきぬをかたみと見給へ月のいてたらむ
夜は見おこせ給へみすてたてまつりてまか
る*空よりもおちぬへき心ちすると書を*く
天人の中にもたせたる箱ありあまのは衣い
れり又あるはふしのくすりいれりひとりの天人

いふつほなる御くすりたてまつれきたなき所の
物きこしめしたれは御こゝちあしからむ物そ
とてもてよりたれは*わつかなめ給ひてすこし
かたみとてぬきをくきぬにつゝまんとすれ
はある天人つゝませすみそをとり出てきせん
とすその*時にかくや姫しはしまてといふ
きぬきせつる人は心ことになるなりといふ物
ひとこといひをくへき事ありけりといひて
文かく天人おそしと心もとなかり給ひかくや姫物

しらぬことなの給そとにていみしくしつかにおほ
やけに御ふみたてまつり給あはてぬさま也
かくあまたの人をたまひてとゝめさせ給へと
ゆるさぬむかへ*またてきてとりいてまかりぬれ
はくちおしくかなしき事宮つかヘつかうまつ
らすなりぬるもかくわつらはしき身にて侍
れは心えすおほしめされつらめとも心つよ
くうけたまはらすなりにし事なめけなる
物におほしめしとゝめられぬるなん心にとゝ

まり侍りぬとて
 今はとて天のは衣きるおりそ君をあはれと
おもひいてけるとてつほの*薬そへて*頭中将よひ
よせてたてまつらす*中将に天人とりてつたふ中
将とりつれはふとあまのは*衣うちきせたてまつりつれは
翁をいとおしくかなしとおほしつる事もうせぬ
此きぬきつる人は物おもひなく成にけれは*車に
のりて百人はかり天人くしてのほりぬそのゝち
翁女ちの*涙をなかしてまとへとかひなしあの書を

きし文をよみきかせけれとなにせむにか*命も
おしからむたか*為にか何事もようもなしとて*薬
もくはすやかておきもあからてやみふせり中将人々
ひきくして帰りまいりてかくや姫をえたゝかひとめ
す成ぬる事こま\/とそうす*薬のつほに御文
そへてまいらすひろけて御覧していと*たくあはれ
からせ給て物もきこしめさす御あそひなともなか
りけり大臣*上達部をめしていつれの山か天に
ちかきとゝはせ給ふに人そうすするかの国にある

なる山なんこのみやこもちかく天もちかく侍ると*奏*す
これをきかせ給ひて
 *逢ことも*涙にうかふ*我*身にはしなぬくすりも
何にかはせむかのたてまつるふしの薬に又つほくして
御*使にたまはす*勅使にはつきのいはかさといふ人をめして
するかの国にあなる山のいたゝきにもてつくへきよし仰
給みねにてすへきやうをしへさせ給御ふみふしの*薬つほ
ならへて火をつけてもやすへきよしおほせ給
そのよしうけたまはりてつはものともあまたく

して山へのほりけるよりなんその山をふし
の山とは名つけゝるそのけふりいまた雲の
なかへたちのほるとそいひつたへたる

《一面白紙》

借伊賀前司神元純上原手終写功
自加一校畢
 天正廿年林鐘下旬記之
         也足子【花押】
 文禄五壬七六以松下民部少甫述久本重校正了
【注記】
*いつゝ:「つゝ」に見せ消ち、「へへ」と傍書
(前の「へ」はほぼ摩滅)
*後:傍書「のち」
*うちも:補入「うち[より]も」
*けそう:「そう」に見せ消ち、「うら」と傍書
*あるき:「る」に傍書「り」
*時:傍書「とき」
*大伴:傍書「おほとも」
*かたり:「り」を見せ消ち、傍書「ち」
*物を:「を」を見せ消ち、傍書「も」
*吾:傍書「われ」
*かゝれは:「か(閑の草体)」に傍書「か」
*願:傍書「ぐはん」
*變化:傍書「へ[ん]げ」(但し「ん」はほぼ擦り消されている)
*うけけ:「うけ[け]」の「け」を見せ消ち
*ひとしかんや:補入「ひとしか[ら]んや」
*上達部:傍書「かんたちへ」
*萬里:傍書「ばんり」
*天竺:傍書「てんぢく」
*大和國:傍書「やまとのくに」
*海:傍書「うみ」
*涙:傍書「なみた」
*光:傍書「ひかり」
*捨て:「捨」に傍書「すて」
*返し:「返」に傍書「かへ」
*かくやひめ:「や」に見せ消ち
*難波:傍書「なには」
*給たる:補入「給たる[かきり]」
*枝:補入「枝[を]」
*なにり:「り」字「は」に似ず不審
仮に前丁「よりくましき」の「り」字との類似より
「り」と読む
*殿:傍書「との」
*たゝに:「おりて」の左、行間に書く
*難波:傍書「なには」
*おほえ:「え(盈の草体)」に傍書「え」
*蓬莱:傍書「ほうらい」
*はなれて:「は(者の草体)」に傍書「は」
*時:傍書「とき」
*浪:傍書「なみ」
*も:「も(裳の草体)」に傍書「も」
*は:補入「[に]は」
*いはん:補入「[かてつきて草の根をくひものとしきある時は]いはん」
*なた:「た」を見せ消ち、傍書「く」
*く:「く」を見せ消ち、傍書「て」
*海:傍書「うみ」
*ふし:「し」を見せ消ち、傍書「と」
*こかねるり色:補入「こかね[しろかね]るり色」
*またて:「た」を見せ消ち、傍書「う」
*またて:「た」を見せ消ち、傍書「う」
*心もと:補入「[さらに]心もと」
*またて:「た」を見せ消ち、傍書「う」
*大願力:傍書「たいぐはんりき」
*くち:「く」を見せ消ち、傍書「こ」
*またて:「た」を見せ消ち、傍書「う」
*翁うちなけきて:補入「翁[きゝて]うちなけきて」
*こゝら:補入「こゝら[の]」(補入記号なし)
*袂:傍書「たもと」
*侘しさ:「侘」に傍書「わひ」
*庭:傍書「には」
*ふみ:「ふ(布の草体)」に傍書「ふイ」
*くもん:傍書「つくも所イ」
*余日:傍書「よにち」
*わつらひ:「つ」を見せ消ち
*をりかくや姫:補入「をり[けり]かくや姫」
*玉の:「れる」の左側・行間に書く
*かうれへ:補入「か[の]うれへ」
*ら:「ら(羅の草体)」に傍書「ら」
*くらころ:「ころ」を見せ消ち、傍書「もち」
*調:傍書「とゝのへ」
*天下:傍書「あめのした」
*事のたまひて:補入「事[と]のたまひて」
*かへし:「へ」に傍書「くイ」
*右大臣:傍書「うたいしん」
*小野:傍書「をの」
*衣:傍書「ころも」
*天竺:傍書「てんちく」
*長者:傍書「ちやうしや」
*舩:傍書「ふね」
*小野:傍書「をの」
*はしらせて:「て」に傍書「むイ」
*またて:「た」を見せ消ち、傍書「う」
*文を:補入「[きたる]文を」
*天竺:傍書「てんちく」
*西:傍書「にし」
*こく:「く」に見せ消ち、傍書「え」
*たまはぬ:補入「たまはぬ[物]」
*かの:「の(乃)」に傍書「ハ歟本」
*こそあなれかならすをくるへき物に:全文を見せ消ち
*色えて:補入「色えて[つくれり]」
*きぬ:傍書「衣」
*こんしやうの:補入「こんしやうの[色なり]」
*うへ:「う」を見せ消ち、傍書「む」
*御身:「身」に傍書「み」
*いと:「い(伊の草体)」に傍書「い」
*限:傍書「かきり」
*衣:傍書「コロモ」(異筆?)
*の:「の」を見せ消ち
*袂:傍書「たもと」
*たてり:「て(傳の草体)」に傍書「て」
*いらむ:ママ。「な」や「は」にはあらず
*しやうし:補入「[まつ]しやうし」
*まつらむ:「む(舞の草体)」に傍書「む」
*世中:傍書「よのなか」
*やめ:補入「や[も]め」
*人に:補入「[よき]人に」
*大臣:傍書「だいじん」
*申:傍書「申」
*葉:傍書「は」
*居:傍書「ゐ」
*給へる:「へる」に傍書「けるイ」
*み:補入「[す]み」
*大伴:「伴」に傍書「とも」
*みゆの:補入「みゆ[き]の」
*大納言:「納」に傍書「なごん」
*五色に:「に」に傍書「の光あるイ」
*いとも:補入「[申さく仰の事は]いとも」
*たつ:傍書「龍」
*大納言:「大納」に傍書「たいなこん」
*のの給(能乃給):「の(能)」より右に線を引き傍書「イ無」
*天竺:傍書「てんちく」
*をり:「を」より右に線を引き傍書「イ無」
*きんちく:「く」を見せ消ち、傍書「ら」
*大納言:「大納」に傍書「たいなこん」
*名:傍書「な」
*君:傍書「きみ」
*仰:傍書「おほせ」
*いかゝ:「い(伊の草体)」に傍書「い」
*いかゝ:補入「いかゝ[は]」
*とく:「く」を見せ消ち、傍書「て」
*いたし:補入「いたし[たて]」
*えて:「て」に傍書「゛(濁点)」
*え:「え(盈の草体)」に傍書「え」
*す:「す(須の草体)」に傍書「す」
*いなむと:「と」を見せ消ち、傍書「す」
*の:「の」より右に線を引き傍書「イ無」
*ゑ:「ゑ(衛の草体)」に傍書「ゑ」
*かつし:「つ」に傍書「゛(濁点)」
*かつし:「つ」に傍書「へ」
*に:「に」より右に線を引き傍書「イ無」
*邊:傍書「へん」
*大伴:「伴」に傍書「とも」
*殿:傍書「との」
*のりて:「て(亭の草体)」に傍書「て」
*そか:傍書「ソガ」(異筆?)
*舩人:傍書「ふなひと」
*わらひて:「らひて」を擦り消した上に「らひてさる」を書く
*えしらて:「え(盈の草体)」に傍書「え」
*をそくゝる:「る(類の草体)」に傍書「る」
*賜:傍書「たまふ」
*海:傍書「うみ」
*出ぬ:補入「出[給ひ]ぬ」
*出ぬ:左側に傍書「給ふイ」
*吹:傍書「ふき」
*浪:傍書「なみ」
*神:傍書「かみ」
*申:傍書「申」
*こゝら:「ら(羅の草体)」に傍書「ら」
*まかりく:補入「まかり[あり]く」
*みふね:「み」に傍書「御」
*もし:「も」より右に線を引き傍書「イ」
*うたて:「う(宇の草体)」に傍書「うイ」(ほぼ摩滅)
*たかき:「た(堂の草体)」に傍書「た」(ほぼ摩滅)
*うちとり:「う」を見せ消ち、傍書「か」
*浪:傍書「なみ」
*毛:傍書「け」
*吹:傍書「ふき」
*吹かせ:補入「[この]吹かせ」
*大納言:補入「大納言[は]」
*吹:傍書「ふき」
*也:補入「也[けり]」
*南海:傍書「なんかい」
*と:補入「と[思ひて]」
*つけ:「つ(津の草体)」に傍書「つ」
*またて:「た」を見せ消ち、傍書「う」
*ひむしろ:「ひ(日の草体)」に傍書「御」
*南海:傍書「みなみのうみ」
*見て:補入「見[たてまつり]て」
*か:「か」より右に線を引き傍書「イ無」
*南:「南」を見せ消ち、傍書「なん」
*殿:傍書「トノ」(異筆?)
*申:傍書「申」
*大納言:傍書「たいなこん」
*神:傍書「かみ」
*る:「る(留の草体)」に傍書「る」
*とらへ:補入「とらへ[たら]」
*す:「す(須の草体)」に傍書「す」
*たり:傍書「たるイ」
*世界:傍書「せかい」
*の:「界」の下半分に重ねて書く
*大伴:傍書「おほとも」
*はらくか:「ら」に傍書「本」
*つく:傍書「つゝ」
*う:「う(宇の草体)」に傍書「う」
*そこら:補入「そこら[の]」
*中:傍書「ちう」
*納言:傍書「なごん」
*つる:傍書「けり」
*あなゝい:「ゝ」に傍書「本」
*殿:傍書「との」
*貝:傍書「かい」
*官人:傍書「くはんにん」
*こやす:補入「[の]こやす」(補入記号なし)
*またて:「た」を見せ消ち、傍書「う」
*せ給:「せ(勢の草体)」に傍書「せ」
*鳥:傍書「とり」
*子:傍書「こ」
*うれしき:「き」を見せ消ち、傍書「さ」
*またて:「た」を見せ消ち、傍書「う」
*吾:傍書「われ」
*のほりて:「て」より右に線を引き傍書「イ無」
*かうし:補入「か[ら]うし」
*くそを:補入「[ふるイ]くそを」
*御こゝち:「御」より右に線を引き傍書「イ無」
*いれられ:補入「[ふたの]いれられ」
*いゝいけ:「ゝ」に傍書「本」
*とらす:補入「[え]とらす」
*けり:「り(李の草体)」に傍書「り」
*浪:傍書「なみ」
*ある:補入「ある[を]」
*なく:「な」に傍書「かイ」
*おほえ:「え」に傍書「しイ」
*もれり:「も」に見せ消ち、傍書「か」
*内侍:傍書「ないし」
*申:補入「[かく]申」
*君の:傍書「イ無」
*内侍:傍書「ないし」
*内侍:傍書「ないし」
*みて:補入「み[たてまつり]て」
*国王:傍書「こくわう」
*有:傍書「あり」
*葉:傍書「は」
*國王:傍書「こくわう」
*内侍:傍書「ないし」
*奏:傍書「そう」
*ろしける:補入「ろし[て]ける」
*おほし:補入「[猶]おほし」
*はし:「は」を見せ消ち、傍書「よ」
*事:「事」より右に線を引き傍書「イ無」
*奏:傍書「そう」
*す:「す(寿の草体)」に傍書「す」
*よろこひ:「ひ(飛の草体)」に傍書「ひ」
*ことに:補入「ことに[つかん]」
*てんか:補入「てんか[の]」(補入記号なし)
*あやうさ:「さ」に傍書「きイ」
*給:補入「給[はく]」
*ちかく:「く」を見せ消ち、傍書「か」
*宮つこまろ:補入「宮つこまろ[か]」
*御覧:「覧」に傍書「らん」
*奏:傍書「そう」
*おほさるゝ事せきとめかたしかくみせつる
*と:補入「と[おほして]」
*おほさるゝ:補入「おほ[しめ]さるゝ」(補入記号なし)
*給ひ:「ひ」を見せ消ち
*百官:「官」に傍書「くはん」
*いかゝ:「かゝ」に傍書「\とゝ」(※\は合点らしき斜線)
*けり:「り」に「る歟」
*月の:補入「[かくや姫]月の」
*おもしろ:補入「おもしろ[く]」
*月:補入「月[の]」
*に:「に」を見せ消ち、傍書「と」
*み:「ニて」の用に書くが、「ミ」の変形と見なした
*けしき:補入「けしき[は]」(補入記号なし)
*物:補入「物[をイ]」
*居:傍書「ゐ」
*なん:「なん」を見せ消ち、傍書「イ無」
*昔:傍書「むかし」
*むかひ:「ひ」を見せ消ち、傍書「へ」
*人:傍書「人々イ」
*むかひ:「ひ」を見せ消ち、傍書「へ」
*そう:補入「そう[し]」
*勅使:傍書「ちよくし」
*少将:傍書「せうしやう」
*高野:傍書「たかの」
*ついちの上に千人:補入「ついちの上に千人[屋のうへに千人]」
*いとろして:「と」を見せ消ち、傍書「こ」
*さし:補入「さし[ともを]」
*契:傍書「ちきり」
*思ふ:補入「[と]思ふ」
*歎き:「歎き(きは支の草体)」に傍書「なけき」
*すきて:補入「[うち]すきて」
*ひと:「ひと(日登)」を見せ消ち、傍書「人」
*雲:傍書「くも」
*あかる:補入「あか[りた]る」
*けり:「り(梨の草体)」に傍書「り」
*なえ:「え(縦に長い棒状の「え」)」に見せ消ち、傍書「え」
*装束:傍書「しやうそく」
*車:傍書「くるま」
*かへたる:補入「かへたる[か]」
*歎:傍書「なけ」
*余:傍書「よ」
*年:傍書「ねん」
*そ:補入「そ[の]」
*いて「い」より右に線を引き傍書「イ無」
*てふせれは心まとひぬ文を*書をきて
*姫:補入「姫[いふ]」
*に:補入「に[も]」
*たてまつらむ:「てまつらむ」の箇所、手で擦りたるごとき跡(汚損)あり
*て:「て(亭の草体)」に傍書「て」
*書:傍書「かき」
*葉:傍書「は」
*国:傍書「くに」
*別:傍書「わかれ」
*空:傍書「そら」
*く:前字「を」の左側・行間に書く
*わつか:傍書「いさゝかイ」
*時:傍書「とき」
*またて:「た」を見せ消ち、傍書「う」
*薬:傍書「くすり」
*頭中将:傍書「とうのちうしやう」
*中将:傍書「ちうしやう」
*衣:傍書「ころも」
*車:傍書「くるま」
*涙:傍書「なみた」
*命:傍書「いのち」
*為:傍書「ため」
*薬:傍書「くすり」
*薬:傍書「くすり」
*たく:補入「[い]たく」
*上達部:傍書「かんたちへ」
*奏:傍書「そう」
*す:「す(順の草体)」に傍書「す」
*逢:傍書「あふ」
*涙:傍書「なみた」
*我:傍書「わか」
*身:傍書「み」
*使:傍書「つかひ」
*勅使:傍書「ちよくし」
*薬:補入「薬[の]」